2020-01-01から1年間の記事一覧

中山義秀「碑」「切支丹屋敷」を読む

中山義秀(1900-69)の中編「碑(いしぶみ)」を読む。中山は福島県白河市の生れ。「厚物咲」で1938年芥川賞受賞。翌年発表の「碑」は、祖父をモデルとしたものと言われ、下級武士の家に生まれた性格を異にする三兄弟が、幕末に佐幕派として、尊攘派として、そ…

【戦中に刊行された『頼山陽詩抄』について】

『頼山陽詩抄』(岩波文庫)を読む。これは、頼成一と伊藤吉三の訳注で、頼山陽の代表的な詩三百篇を収録している。第1刷は1944年に刊行されたもので、わたしの手元にあるのは岩波文庫創刊70周年記念として1997年3月に復刊された第3刷。半世紀かかって3刷…

丸山眞男と福沢諭吉:平石直昭の論考

昨6/9日は、『丸山眞男講義録別冊一、二』(東大出版会)の刊行を記念した 公開セミナー「丸山眞男の講義:政治思想史家丸山眞男は講義を通して何を訴えようとしたか」(主催:東京大学校友会ほか)に出るため久々に東大本郷へ。山辺春彦講師が『講義録別冊』…

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』(小学館、1989)読了。矢嶋楫子(1833-1925)は女子学院院長をなどを務めた教育者、かつキリスト教婦人矯風会を率いた社会運動家。著者はこの自らの作品について「単なる伝記の抄出のようでいて伝記でもない。小説に似て…

中村武羅夫の辻堂

藤沢市辻堂西海岸の勘久公園を訪れた。ここは、北海道は岩見沢の出身である編集者・作家の中村武羅夫(1887-1949)が1921年に別荘を建てその後住まいとした地。辻堂駅から南に約15分の距離。跡地は勘久公園として整備され、中村の文学碑「誰だ 花園を荒らす者…

頌 土方正志

頌 土方正志(20160309) 5年を迎える東日本大震災の起きた3月11日が近づいてきて、落ち着かない気持ちでいる。そのような中、今日は、東京は神田神保町の東京堂書店で開かれた《『震災編集者――東北のちいさな出版社〈荒蝦夷〉の5年間』刊行記念 土方正志さ…

編集記

【回想】わたしは、30代は、東京大学出版会の編集者として、出版方針の一つの柱として尽力したのは、日本戦後史をテーマとしたものである。特に、日本が降伏したのちGHQによって統治された占領戦後史を重点的に出版の焦点に据えた。これには理由がある。アメ…

佐左木俊郎と夢野久作

夢野久作の佐左木俊郎宛書簡が国書刊行会版『夢野久作全集6』月報の土方正志「夢野久作と佐左木俊郎」で紹介されている。それによると、日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる夢野久作『ドグラ・マグラ』の原稿は、最初、作家であり新潮社の編集者であっ…

南原繁の丸山眞男宛て書簡、『形相』についての留意点

「南原繁書簡 丸山眞男宛 21通」が『東京女子大学比較文化研究所附置丸山眞男記念比較思想研究センター報告』(2019.3) に掲載されている。特に戦前の8通は今回初めての公開と思われる。その中に南原の歌集『形相』に収録されなかった歌も書簡中にあるのも…

佐左木俊郎、新作探偵小説全集、探偵クラブ

新潮社から「新作探偵小説全集」全10巻が1932年から33年にかけて刊行された。当時の探偵小説作家を糾合した書き下ろし新作シリーズである。これは甲賀三郎が企画したものであるが、新潮社の社員であった佐左木俊郎は1929年から『文学時代』の編集を担当し、…

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』

2019/05/30 昨日の歯周病外科の大手術で今日は安静。お陰でトクヴィル (松本礼二訳)『アメリカのデモクラシー』第2巻下を読み終えた。岩波文庫全4冊で計1400ページ。今年の稀なる10日連休に際し読破を決意したのであるが、ほぼ1ヶ月かかった。1840年に刊…

矢田津世子、佐左木俊郎、『文学時代』

昭和戦前期の作家 矢田津世子(1907-44)と『文学時代』(新潮社、佐左木俊郎が編集)について調べていたら、津世子の兄が後に大和生命保険社長を務めた矢田不二郎(1902-78)であることを知った。数十年前の学生時代、矢田社長と親しくしていた大叔父から「も…

コロナ禍の中で新刊を刊行した著者に宛てた一文

著者に宛てた文面の一部: 先生の書籍の刊行にあたりましては大変お世話になり、ありがとうございます。発売からちょうど1か月となります。コロナ禍の最中の発刊となり、どうなることか心配しました。 四十数年、出版界に棲息していますと、さまざまな危機に…

佐久間象山の失敗した字書出版計画

佐久間象山の失敗した字書出版計画 2012/05/27天理ギャラリー「近世の文人たち」には、佐久間象山(1811-64)の自筆の「ハルマ出版に関する藩主宛上書」(嘉永2=1849年2月)が展示されていて、かつて調べたことのある象山の失敗した字書出版計画のことを思…

木下尚江『火の柱』

読もうとして挫折を繰り返していた木下尚江『火の柱』(1904年5月初刊)を一気に読了した。鄭玹汀『天皇制国家と女性:日本キリスト教史における木下尚江』(教文館、2003年2月)によって、近代日本における木下の位置を頭に入れていたことによって、読了で…

大槻文彦『大言海』の表記について

ことわざについての出版企画を検討中。文中、1956年版の大槻文彦『新訂 大言海』が出てくる。わたしが持っている1932-35年版の4冊本『大言海』でチェックしている。大言海の旧仮名遣いはメリットであるが、今日の五十音順とは異なる配列、変体仮名による表…

柳田泉『日本革命の予言者 木下尚江』(春秋社、1961)読了

20130920 柳田泉『日本革命の予言者 木下尚江』(春秋社、1961)読了。吉野作造らとともに明治文化研究会を主導した篤実な日本近代文学史家というイメージを抱いていた柳田泉が、ラディカルなキリスト教革命家というべき木下尚江について一書を著しているこ…

鄭玹汀『天皇制国家と女性:日本キリスト教史における木下尚江』(教文館、2003年2月)を読む

20130518 鄭玹汀『天皇制国家と女性:日本キリスト教史における木下尚江』(教文館、2003年2月)本 書は、木下尚江についてフェイスブックに書かれていた未知の鄭さんに私が応答し、そして献本していただいたものである。見知らぬ私にお贈りいただいた鄭さん…

『月刊 文藝春秋』創刊号(1923年1月1日)復刻版by黒岩ライブラリー。

『月刊 文藝春秋』創刊号(1923年1月1日)復刻版by黒岩ライブラリー。発行元の文藝春秋社に住所は菊池寛の自宅であり名義的なもので、発売元は春陽社だった。自立するのは3年後。ページは28と今日のPR誌並み。発行部数3000部。芥川龍之介「侏儒の言葉」な…

中江兆民の日本出版会社

20180516 中江兆民は、1883(明治16)年に「日本出版会社」を作り、社長に就任。バックル『英国文明史』第1-8篇(土居光華訳、1883-84)、ヒューム『政治哲学論集 第1巻』(土居言太郎、1885)はじめ何冊かの本を翻訳出版している。その前に『民約訳解』など…

高坂正堯先生のこと

24前の今日、1996年5月15日、国際政治学者の高坂正堯先生が亡くなりました。享年62. 高坂先生には『講座国際政治4 日本の外交』(東京大学出版会 1989)で「日本外交の評価」というテーマで、入江昭先生と対になる構成で執筆いただきました。執筆の依頼のた…

須田茂『近現代アイヌ文学史論:アイヌ民族による日本語文学の軌跡〈近代編〉』(寿郎社、2018)

須田茂『近現代アイヌ文学史論:アイヌ民族による日本語文学の軌跡〈近代編〉』(寿郎社、2018)を読み始めたところ。当然ながら、「近代」とは、「アイヌ」とは、「文学」とは、また「日本」とは、等などの問いが押し寄せてくる。それに対して、著者は著者な…

『男はつらいよ 純情篇』と垂水五郎さん

テレビで『男はつらいよ 純情篇』を初めて見た。これは、は、1971年公開のシリーズの6作目。寅さんの相手は若尾文子。寅さんが失恋する最終場面に登場するのが、若尾文子の夫役の垂水五郎であって、見ていて、あっと驚いた。というのは、わたしは学生時代に…

前田河広一郎の作品を読む

前田河広一郎(1888-1957)の作品「セムガ(鮭)」(1929)及び「アトランティック丸」(1931)を読了。「セムガ(鮭)」は、小林多喜二の「蟹工船」に似て、函館から送られた漁師ほか数百人がカムチャツカでの鮭鱒漁および加工に携わる過酷な労働現場と管理の様子を…

『日本人の読み書き能力』

20130127 日本語の表記について大事なことを書きます。少し長いですが、御忍耐のほどを―― 今日1月26日の朝日新聞夕刊「昭和史再訪」の「21年(1946年11月16日) 当用漢字の告示」は大きな問題がある。見出しは「楽に読み書き ローマ字化阻む」である。コラム…

足利学校メモ

2012年10月30日の足利学校メモ足利学校メモ①:五味文彦『日本の中世を歩く』(岩波新書、2009)によれば、連歌師の宗祇の弟子である宗長(1448-1532)の著した『東路の津登』(あずまじのつと)には、永正6年1509年に下野の足利学校に立ち寄った時の記述が…

詩人 竹内浩三:骨のうたう

99年前の今日、1921年5月12日、詩人の竹内浩三が三重県宇治山田市(現 伊勢市)に生れました。彼は中学校の先輩 小津安二郎を目指して映画を撮る夢を持っていましたが、徴集され、1945年4月9日にフィリピンで戦闘死したと伝えられます。享年23. 彼の残した…

中村睦男先生とお会いする(20180223)

20180223 今日は『アイヌ民族法制と憲法』(北海道大学出版会)の著者 中村睦男先生と初めてお会いし、1時間ほど歓談。新著をめぐっての話のほか、驚いたのは、先生の出身の室蘭栄高校の先輩に知里真志保、そして鴨下重彦先生がいたこと。特に鴨下先生(2011…

日本:ニッポン、ニホン

「日本」をどう発音するか。戸板康二『折口信夫座談』(中公文庫 1978)で、折口信夫は、1946年時点で、太平洋戦争中は「ニホン」に勢力があり、戦後は「ニッポン」が増えているといい、昔の日本語にはパ行の音がなかったので、「ニッポン」と発音するのはい…

中村睦男先生逝去:『平和憲法とともに』

中村睦男先生が逝去された。今年に入って、『教材判例憲法 第五版』(北大出版会)や『平和憲法とともに:深瀬忠一の人と学問』(新教出版社)を出版されていたので、お元気であるとばかり思っていた。その『平和憲法ともに』の書評がつい先日、道新に出たばかり…