三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』(小学館、1989)読了。矢嶋楫子(1833-1925)は女子学院院長をなどを務めた教育者、かつキリスト教婦人矯風会を率いた社会運動家。著者はこの自らの作品について「単なる伝記の抄出のようでいて伝記でもない。小説に似ていて小説でもない。評伝のようであるがそれともちがう。ただ私は、矢嶋楫子なる人物を伝えたかった。」と書いている。矛盾の塊のようであり偽善者でもあるような楫子の生涯に自由な方法でアプローチして、その個性と魅力を描き出そうとしている。

女性として厳しい尋常でない人生を歩み、また(評価は分かれるとしても)教育者・社会運動家として尋常でない業績をあげた矢嶋楫子を描き出した佳作であるが、読みつつ、何か物足りなさを感じた。そして、(伝記の抄出ということもあるのだろうか)必ずしも自らの文体に昇華しないままの文章を綴っているような箇所があり、読んでいて意気沮喪する。これは、著者が矢嶋を称揚しているためであろうか、あるいは健康に恵まれない著者の晩年の作品だからであろうか。

2013/06/05