2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

佐左木俊郎と吉野作造:「土百姓」ということ

宮城県大崎市生まれの吉野作造と佐左木俊郎との共通点のひとつは、自らを「百姓」「土百姓」の裔と称したことである。例えば、吉野は、1925年6月17日の日付を持つ自己紹介文(教え子に与えた写真に裏書きしたもの)次のように書いている(『吉野作造選集 12…

書評を書くということ

書評にあたっては、前提として⓪本を読まないで書く芸当はしないこと、そして心掛けているのは、①本を読んでいない人でも概要が分かること、②本を読んだ人には共感できる部分があると思ってもらうこと、③著者にはそのような読み方があるのかと思わせること、④…

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わり

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わりについて述べておく。『和蘭美政録』とは、「ヨンケル・ファン・ロデレイキ一件」と「青騎兵並右家族供吟味一件」という二編のオランダ探偵小説に訳者の神田孝平が付したタイトル…

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読む:未成の思想

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読了。1995年はヒロシマへの原爆投下から50年目であり、本書は、ジャーナリストを経て当時広島市長に就いていた著者がヒロシマについて語りヒロシマから語ったことを中心に編まれている。四半世紀ほど前の表現で…

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文より

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文よりーー《私が書物の印刷を始めたのは、美への明確な要求を持つと同時に、読みやすくして眼をちらつかせず、またことさらに風変わりな字形によって読者の知力を乱すようなことのない書物を作…

佐左木俊郎探偵小説選に寄せたエッセイ

『佐左木俊郎探偵小説選 I』(竹中英俊・土方正志編、論創社)が8月に刊行予定。続刊の同 Ⅱ 巻に寄せるエッセイを本日書き上げて編集部に送付した。400字40枚。 2018年3月に執筆依頼を受けてからの二年余、どう書いたらいいか頭から離れることがなかった。…

丸山眞男『日本政治思想史研究』とわたし

2013/07/19 作文する必要があり、丸山眞男『日本政治思想史研究』(東京大学出版会、新装版、1983)を取り出していたら、当時、上司の指示により、この新装版の本作りを手伝った30年前のことが蘇ってきた。丸山先生との話し合いにより、新しく組むにあたって…

「東京」「東亰」

慶応4年(1868)7月17日、「江戸ヲ東京ト称ス」との詔書が発せられ、江戸から東京に改称されました。この「東京」という言葉は江戸以前からあって、読み方も「トウキョウ」と「トウケイ」の二つがあり、明治30年代の国定教科書により「トウキョウ」に統一さ…

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)を読む

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)読了。これは、著者が中国新聞記者時代に各誌に書いた文章をまとめたもの。半世紀を経るものだが、驚くほど今日の状況を撃つものだ。日本の植民地責任と戦争責任、日本人被爆者と朝鮮人被爆…

吉川幸次郎『本居宣長』について

吉川幸次郎『本居宣長』について 「近世日本最大の学術出版人」と私が見ています本居宣長について記します。 7月9日の京都フォーラムに参加するため、前日に新幹線に乗ったのですが、そののぞみ車中で吉川幸次郎『本居宣長』(筑摩書房 1977)を読み終えまし…

日本読書組合版宮沢賢治文庫

21170202 【日本読書組合版宮沢賢治文庫】昨日、英宝社の社長の佐々木元さんと会っていて思い出したことがある。英宝社は、ジョン・ロナルド・ブリンクリー(1887-1964) が初代社長として創設された出版社であるが、実務の中心は、2代目社長となった佐々木…

丸山真男の鍛治隆一宛て書簡:東京大学出版会前後

東大出版会の前身の一つである東大協同組合出版部(1946年秋に活動開始)には、出版企画についての顧問会があり、そのメンバーは、渡辺一夫、福武直、中野好夫、丸山眞男、宮原誠一であると『東京大学出版会 50年の歩み』にある。その具体的な裏付けを、丸山…

ジャコメッティと矢内原伊作 2019

2019/07/08 国立国際美術館で「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅰ」が開催中(8月4日まで) 《20世紀最大の彫刻家であるジャコメッティの研究において、哲学者・矢内原伊作(1918-1989)の存在はとても大きなものです。矢内原は1956年から1961年の間に…

鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」

2012/07/03 鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」を週末に読み終えた。なかなか文語文はつらい(また片仮名の「ヱヌス」が「ヴィーナス」であることは注記なしには分らない)が、それでも、鷗外の自覚的な文章統御意識による緊密な文体と形式…

是枝監督『万引き家族』

2018/07/03 昨日は、東京日比谷のTOHOシネマズで是枝監督の『万引き家族』を観て来ました。観る前と後とで、日比谷や銀座の街の風景と歩く人々が違って見えました。是枝作品はこれまで『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』を観ていますが、いず…