2022-01-01から1年間の記事一覧

徳永直『光をかかぐる人々 日本の活字』(河出書房1943)を読む

『光をかかぐる人々 日本の活字』(河出書房1943)を青空文庫で読む。これは、日本における活字印刷の誕生を追いかけたもの。小説的造形としては不十分なエッセイ風の長編であるが、作者自身、若い時から印刷工として働き、またプロレタリア文学の代表作で共…

徳永直の初期作品「馬」(1925年6月) と「あまり者」(1925年11月)を読む

徳永直(1899-1956)の初期作品である「馬」(1925年6月) と「あまり者」(1925年11月)の二篇を読む。これらを読むと、佐左木俊郎の根が純乎たる農民文学にあったと同様に、徳永直の根が純乎たる労働者文学(あるいは生活者文学)にあったことが分かる。二人とも…

辻村もと子『馬追原野』ほかを読む

辻村もと子(1906-46)は北海道岩見沢志文生まれの作家。 代表作は『馬追原野』(風土社1942)。岩見沢志文の草分け的開拓者である作者の父(辻村直四郎)をモデルとした北海道開拓小説。戦前期、女性作家による開拓小説は珍しい。また、二宮尊徳と北海道開拓との…

古内一絵『星影さやかに』読了

古内一絵『星影さやかに』(文藝春秋2021)読了。本書は作者の家族をモデルとして描いたものだという。 主な舞台は、宮城県大崎平野の古川(現在の大崎市)。時は、前回の東京オリンピックが行われた1964年で、家族の歴史を遡って、戦前戦中戦後、戊辰戦争(そ…

ベルリンの壁崩壊の日から33年

今日11月9日はベルリンの壁崩壊の日。1989年。33年経っても忘れることができないでいる。信じがたい思いでその報に接した。そして、一方で、新しい時代の到来を確信するとともに、他方で、心底青ざめる事態があった。 企画編集した東京大学出版会『講座国際…

南原繁と中江丑吉 2022/11/03

[11/3南原繁シンポジウム後の懇親会での挨拶] 本日、久しぶりにリアルの南原繁シンポジウムに参加させていただきました。いいですね。開会の挨拶で樋野興夫代表が語られましたが今回が19回。2004年の南原繁研究会立ち上げの際にわたしも呼びかけに応えて参…

アッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』(1997)について

アッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』(1997)を見る。かつて、このイランの監督の作品の特異な相貌に接し、上映館を追いかけたことがある。アジアとは何かを追いかけていた1990年代のことである。 この『桜桃の味』は、金は持っているらしい中高年男性の…

三笠の炭鉱遺産見学

今日は、大麻の友人の案内で三笠市の炭鉱跡を見学。計4人。岩見沢の「そらち炭鉱の記憶マネジメントセンター」に集合。ここは炭鉱と鉄道・鉄鋼と港湾を一体のものとして見る「炭鉄港」という概念のもと、「炭鉱の記憶」の情報拠点として運営されている。 車…

慶應義塾長小泉信三と慶應出版

慶應義塾長小泉信三と慶應出版に関連した旧稿(2015/10/01)です。 「1937年に設立された慶應出版社について:ユニバーシティ・エクステンションの重要性」 時の塾長小泉信三は1936年ハーヴァード大学創立三百年記念祝賀式典に招かれた際に、いくつかの大学を…

伝説の江川書房の本:嘉村礒多『途上』限定500部

江川書房の本:嘉村礒多『途上』限定500部、函入り、1932年8月。「秋立つまで」「途上」の二篇を収録。題字は嘉村礒多。印刷は白井赫太郎。製本は中野利一。函、表紙、本文用紙、すべてに越前手漉楮紙を使用。装幀と刊行は江川正之。 この『途上』は江川書…

嘉村礒多「崖の下」を読む

嘉村礒多(1897-1933)の初期の代表作「崖の下」(『不同調』1928.7)400字48枚を『私小説名作選上』(中村光夫選、講談社文芸文庫)で読む。掲載誌『不同調』は「文壇の大久保彦左」と言われた中村武羅夫主宰の雑誌で、嘉村はその記者をしていた。 「崖の下」…

岡義武『独逸デモクラシーの悲劇』(アテネ文庫1949)

昨日の菅義偉前首相による安倍晋三元首相追悼において岡義武『山県有朋』が言及された。岡には名著『独逸デモクラシーの悲劇』もある。以下は、2016/09/28の拙文。 梅田の阪急古書の街の太田書店で見つけた岡義武著『独逸デモクラシーの悲劇』(弘文堂、アテ…

佐左木俊郎「明日の太陽」について

佐左木俊郎「明日の太陽」について竹中英俊 2022/09/25 『佐左木俊郎選集』(英宝社1984)の「年譜」の1931年(昭和6年)の項に「長編小説「明日の太陽」を6年2月1日より『河北新報』に連載、同年7月3日第150回をもって完結。」と記載されている。佐左木…

丸山眞男と高木博義 「96年の会」と「60年の会」

名古屋・丸山眞男読書会「96年の会」発行の『第100回「96年の会」丸山眞男没後25周年記念会記念文集』(2022.8.15発行)を寄贈さる。同会は丸山逝去の年1996年秋に高木博義氏の呼びかけで始まったもの。年4回のペースで読書会・公開記念会を持ち、5年ごとに…

中江丑吉・市塵の思考者について

今日の南原繁研究会では、南原繁と東京帝国大学法科大学政治学科で同期の中江丑吉(中江兆民の息子)が話題になった。 かつて中江丑吉について、湘南科学史研究会で「中江丑吉・市塵の思考者について」と題して話をしたことがある。その趣旨を研究会員に送っ…

誄詞(石井和夫氏弔辞)

今日は18時から月例の南原繁研究会があり、久しぶりに参加した。 研究会では、8月に逝去された元会員の石井和夫氏追悼の誄詞(るいし)を述べた。石井氏は、丸山眞男『日本政治思想史』を担当した編集者である。以下、その誄詞を掲載する。 誄詞 南原繁研究…

東大出版会理事としての丸山眞男:石井和夫の証言

丸山眞男先生は1957年から1960年までの4年間、東京大学出版会の理事として務められた。その時の様子を編集主任であった石井和夫から聞いた。以下の通り。《石井 当時、東大法学部からは法律と政治と二人の理事が出ることが多かったのです。辻清明先生のあと…

石井和夫氏逝去

東京大学出版会の創業時(1951年)に編集担当責任者の辞令を南原繁東大総長(東京大学出版会初代会長)から発令された石井和夫(1927)が、8月24日に逝去されました。享年95.覚悟していたとはいえ、寂寥感が募ります。 石井和夫については、同氏が2009年に…

佐左木俊郎 大沼渉 松田解子 陀田勘助

親戚の作家の佐左木俊郎と同郷の大沼渉(宮城県大崎市岩出山下一栗出身)をゼロから調べ始め、社会運動の同志である陀田勘助や大沼配偶者の作家松田解子のルートからアプローチしていた。佐左木俊郎は『文学時代』の編集者として松田解子と接触を持っている…

佐左木俊郎と川端康成 メモ

1899年6月14日生まれの川端康成と、1900年4月14日生まれの佐左木俊郎とは、10ヶ月の違いがあるが、同世代の人間である。 川端は、『新潮』1933年5月の文芸時評でも書いている通り、同年3月13日に亡くなった佐左木俊郎の家を弔問しているが、『文芸』1933…

編集者としての佐左木俊郎:佐多稲子と楢崎勤

編集者としての佐左木俊郎の活動を知るには、新潮社の『文章倶楽部』や『文学時代』を通して付き合いのあった作家について調べる必要があるが、その著作や書簡にあたらねばならず、今のところ、川端康成や小林多喜二以外には、手を付けることができないでい…

同伴者作家としての佐左木俊郎:宮本顕治の「同伴者作家」

【同伴者作家としての佐左木俊郎】 宮本顕治「同伴者作家」(1931.4月号) を『宮本顕治文芸評論選集 第一巻』(新日本出版社1980)で読む。トロツキー文学論での同伴者作家の規定に準拠しながら、広津和郎を主とした対象として論じ、広津らは革命的プロレタリ…

転向文学を書いた石坂洋次郎

【転向文学を書いた石坂洋次郎】 『青い山脈』や『石中先生行状記』などで知られる石坂洋次郎を「転向文学者」と呼ぶと違和感を与えるのではないだろうか。わたし自身、そう思っていた。ただ平野謙『昭和文学私史』(毎日新聞社、1977)で石坂の『麦死なず』…

北のまほろば

石坂洋次郎との関連で葛西善蔵について調べていて、そう言えば、旧弘前市立図書館の近くに文学者の碑があったことを思い出した。調べてみたら、今官一文学碑である。 2008年8月、大学出版部協会の夏季研修会で弘前に行った時である。その時は、金木町の斜陽…

田口富久治先生追悼

田口富久治先生追悼2022/06/08 はじめに本日6月8日、田口富久治先生の訃報に接した。共同通信の流した記事。《田口 富久治氏(たぐち・ふくじ=名古屋大名誉教授、政治学)5月23日午前5時8分、老衰のため愛知県日進市の病院で死去、91歳。秋田市出…

真藤順丈『宝島』

真藤順丈『宝島』(講談社) を読了。山田風太郎賞および直木賞受賞作品。沖縄返還に至る戦後史を舞台とした小説であると知り、手にとってみた。400字原稿用紙960枚、四六判540ページの長編であるが、巻置く能わず、一気に読ませる魅力を持った作品だった。本…

中山義秀と佐左木俊郎

今日3/13日は佐左木俊郎の命日である。89 年前、1933(昭和8)年。33歳だった。のこされた美禰子夫人と息子久夫、娘郁子は、美禰子が育った小樽に帰った。そのことは、作家の中山議秀(義秀)による美禰子宛てはがきで確認できる。 佐左木俊郎と交流のあっ…

栗原幸夫『プロレタリア文学とその時代』(平凡社1971)を読む

栗原幸夫『プロレタリア文学とその時代』(平凡社1971)読了。今さらプロレタリア文学ではないでしょうという思いが頻々としながら、しかし、1920年代30年代日本および世界を考えるにあたって、プロレタリア文学をオミットすることはできないと思い、本書を読…

犬田卯著/小田切秀雄編『日本農民文学史』(農文協1958)を読む

犬田卯『日本農民文学史』(農文協1958)読了。戦前の左翼農民文学運動について今日おそらく誰も関心を示すことのないのではないかと密かに思いつつ、本書をひもどいた。「種蒔く人」を源流としつつ1924年に小牧近江、吉江喬松、中村星湖、加藤武雄、佐左木俊…

Press からPublishingへ

わたしは、活版からコンピュータ写植に移行した1990年代初めから、「University Press からUniversity Publishingへ」というスローガンを東大出版会および大学出版部協会で訴えようと考え、英語ネイティヴの方にUniversity Publishing という表現が可能かと…