コロナ禍の中で新刊を刊行した著者に宛てた一文

著者に宛てた文面の一部:

 先生の書籍の刊行にあたりましては大変お世話になり、ありがとうございます。発売からちょうど1か月となります。コロナ禍の最中の発刊となり、どうなることか心配しました。
 四十数年、出版界に棲息していますと、さまざまな危機に遭遇し、その都度、先の見えない事態に直面してきました。
 脳裏を去来しますのは、古くは1978年の筑摩書房の倒産。人文社会書の危機が喧伝され、硬い本を扱う出版社の業界地図が書き換えられました。ついで1995年の阪神淡路大震災。物流が寸断され、関西方面の書籍流通がストップしました。今世紀に入っては2001年の取次書店の鈴木書店の倒産。大学生協への書籍流通の主要ルートが断たれました。さらに2011年の東日本大震災。書籍の生産工程(印刷用紙や製本資材の調達不能)から流通過程まで大打撃を受けました。そして今日のコロナ禍。
 これは現在も進行中であり、その影響が奈辺に及ぶのか、なかなか見通すことができないでいます。
 出版界においては、この先行き不透明な状況の中、生産調整(新刊刊行抑制)でもって事態に対処しようとしているところもあります。それはそれでよく理解できることです。ただし、わたし自身は、今日的状況においても出版活動を続け、より活性化したいと思っています。出版人とは「希望という処方箋」(精神科医中井久夫の言葉)をもって社会と潜在的読者にあいわたる存在であると確信しているからです。
 引き続きのご支援を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。