今泉みね『名ごりの夢 蘭医桂川家に生まれて』

七代桂川甫周の娘、今泉みね『名ごりの夢』(長崎書店、1941.10.5発行、1942.2.15再刷)読了。サブタイトル「蘭医桂川家に生まれて」を新たに付した平凡社東洋文庫版が金子光晴の解説で出ているが、東洋文庫版は元本の尾佐竹猛の序や多数の貴重な図版をオミットしていて、価値を減じているのが惜しい。
今泉みね(1855-1937)の晩年になってのこの回想記は、息子源吉が主宰する雑誌『みくに』に話したことを、みね没後にまとめて非売品として出したものを、さらに市販品に切り替えたもの。
『名ごりの夢』を読むと、幕末期の桂川家とそこに集う人々の様子が、そして祖父・木村摂津守(芥舟)の家の様子が、ありありと浮かび上がっている。集う人々の名のみあげると、福沢諭吉、柳川春三、宇都宮三郎、成島柳北などなど。そして、維新による没落。佐賀藩出身の今泉利春との結婚。佐賀の乱西南戦争
一方、幕末期の生活ーー雛祭り、花見、芝居見物なども含めてーーが描かれていて、その点でも貴重な記録である。なお、息子の源吉は、法律家でクリスチャン。著書に『蘭学の家桂川の人々』。植村正久を継いだ高倉徳太郎の協力者である。
写真は、前扉。カラフルで、絵もこの本に似合っている。

(20140821記)

 

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