中山義秀「碑」「切支丹屋敷」を読む

中山義秀(1900-69)の中編「碑(いしぶみ)」を読む。中山は福島県白河市の生れ。「厚物咲」で1938年芥川賞受賞。翌年発表の「碑」は、祖父をモデルとしたものと言われ、下級武士の家に生まれた性格を異にする三兄弟が、幕末に佐幕派として、尊攘派として、そして水戸の天狗党への参加者として非常の生活を生き死ぬ姿を描き、明治期に武士を離れ、日常の生活を生き死ぬ姿を描いた名編。転変する時代における兄弟殺しなど悽愴な生の様を描きつつ、その中に生きることの「救い」の光をも放つ作品である。歴史を見つめる中山義秀の透徹さを感じないではいられない。

 


中山義秀切支丹屋敷」(1956) を読む。現在の東京は小石川にあったキリシタン屋敷を舞台にした歴史小説。「転びバテレン」、また幽閉された宣教師シドッチと新井白石の取り調べを媒とした交流、さらにキリシタンの生活の面倒を見る下人夫婦の閉居生活と信仰開眼そしてその悲劇ーーまさに人生の哀感を描いた佳編である。キリシタン信者となる下人夫婦の内面を追った点は特筆に値する。