2023-01-01から1年間の記事一覧
七代桂川甫周の娘、今泉みね『名ごりの夢』(長崎書店、1941.10.5発行、1942.2.15再刷)読了。サブタイトル「蘭医桂川家に生まれて」を新たに付した平凡社東洋文庫版が金子光晴の解説で出ているが、東洋文庫版は元本の尾佐竹猛の序や多数の貴重な図版をオミッ…
津田左右吉の『支那思想と日本』初版(岩波新書1938.11)まえがきの次の文章を受け止めかねている。白川静の思想の根底にある「東アジアの文化の底流にある共通文化」と衝突するし、石川九楊の「漢語と和語による二重言語国家」とも異なる。むしろ本居宣長と近…
[遠山茂樹] 遠山茂樹著作集第8巻所収の「津田博士の天皇制論」は『津田左右吉全集』28巻月報(1988.12)に寄せたたもの。津田が敗戦直後の『世界』1946年3、4月号に発表した「日本歴史の研究に於ける科学的態度」と「建国の事情と万世一系の思想」を取り上…
この間、南原繁についての学術論文の原稿400字800枚近くのを読んでいた。南原繁の政治哲学についての稠密な考察である。並行して柴田錬三郎の小説を読んでいた。南原繁と柴田錬三郎とは関係ない。 ただ、南原繁の師である内村鑑三と繋がりのあった有島武郎も…
有島武郎「お末の死」(『白樺』1916年1月)〔有島武郎著作集第1巻『死』1917年、新潮社、所収〕。札幌の裏店で、母の手伝いで長兄の鶴吉が営む床屋「鶴床」。主人公は14歳のお末。夜学校をやめて、店の手伝いをしている。 二回目の天長節を迎える年、長患…
所蔵している津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』全8巻(岩波文庫1977-78)を本棚の奥から久しぶりに取り出してみた。これは1916年から刊行開始された東京洛陽堂版の初版本を底本としたもの。したがって出版書肆を世話したと思われる坪内逍遥の…
『津田左右吉歴史論集』(岩波文庫)に収録されている「建国の事情と万世一系の思想」は岩波書店の『思想』1946年4月号に掲載されたものであるが、これは『思想』前号に掲載された「日本歴史の研究に於ける科学的態度」(同文庫所収)の後編をなすものである…
石坂洋次郎『海を見に行く』(角川文庫1956:11刷1963)を札幌の南陽堂書店で購入100円。収録作品は、デビュー作「海を見に行く」(三田文学1927)、第二作「炉辺夜話」(三田文学1927)、「キヤンベル夫人訪問記」(三田文学1929)、一般誌に初めて書いた「外交員」(…
前田河広一郎(1888-1957)の作品「セムガ(鮭)」(1929)及び「アトランティック丸」(1931)を読了。「セムガ(鮭)」は、小林多喜二の「蟹工船」に似て、函館から送られた漁師ほか数百人がカムチャツカでの鮭鱒漁および加工に携わる過酷な労働現場と管理の様子を…
伊藤永之介『恐慌』(文芸戦線出版部1930)を読む。 収録された「恐慌」は、1927年の片岡直温蔵相の「失言恐慌」による銀行取付騒ぎを背景とした、日本における経済小説のはしりと評される興味深い佳作。「指」は、徴兵された兵士が兵役拒否をしようとして自ら…
山田孝雄『平田篤胤』(畝傍書房1942年8月8日初版; 1万部)を読んだ。山田孝雄(よしお)については、文法学・国学系の研究者として、また谷崎潤一郎訳『源氏物語』が戦時を慮って中央公論社が校閲役を依頼した人物として、また『国体の本義』を書き、古道を…
秋田出身の『文芸戦線』系の作家伊藤永之介は、プロレタリア文学運動衰退後は、東北農村を舞台とした優れた作品を発表していたが、その特異な作品として1942年4月15日初版の奥付を持つ 『平田篤胤』を借成社から刊行した。戦後は社会主義作家クラブの中心に…
島崎藤村『春』を日本近代文学館の復刻版で読み始めた。まいったなあ。これを最初に読んだのは、1972年20歳の時々。まさに鬱鬱とした青春の時。本書に登場する藤村や透谷の悩みと挫折に自らを重ねて読んでいたことをまざまざと思い出した。果たして自分はこ…
竹沢泰子先生から新著『アメリカの人種主義 カテゴリー/アイデンティティの形成と転換』(名古屋大学出版会)を恵贈される。500頁を超える浩瀚な研究書。日本学術振興会出版助成によるもの。この3月に京都大学人文科学研究所を退職する前にこれまでの成果を…
国際基督教大学教授であった古藤先生が2022年2月5日に亡くなられていたことを遅ればせながら知った。パーキンソン病で定年前に国際基督教大学を辞められて施設に入られていたことは同大学の小島康敬先生から聞いていたが、訃報に接することはなかった。古…
『阿蘇山 徳永直自選集』(新興書房1932) を国会図書館デジタルライブラリーで読む。版元の新興書房については知るところがないが、本書の奥付裏広告を見ると、自選集のシリーズとして、徳永直のほかに貴司山治が刊行され、また近刊として窪川いね子〔佐多稲…