2020-01-01から1年間の記事一覧

佐々木揚先生追悼

東アジア近代史学会の『東アジア近代史』第24号(2020.6) に「佐々木揚先生追悼記事」として、檜山幸夫、川島真、中見立夫の3人が追悼文を寄せている。佐々木先生は佐賀大学名誉教授。2000年に『清末中国における日本観と西洋観』を東京大学出版会から刊行…

田山花袋『重右衛門の最後』

田山花袋『重右衛門の最後』を読了。これは、自然主義作家花袋が生まれる画期となった作品と言われる。初版は1902年(明治35)5月、新声社のアカツキ第五篇として刊行された。新声社は新潮社の前身。『重右衛門の最後』は連作として構想されながら続かなか…

西野嘉章著『装釘考』(玄風舍発行、青木書店発売、2000年)

西野嘉章著『装釘考』(玄風舍発行、青木書店発売、2000年)を再読。凝った造りで、上製、ジャケット・函付。サイズは224×159mmなので菊判変型ないしA5判変型。活版で、おそらく原版刷。本文は概ね旧字体。本文用紙も敢えて上質紙ではないものを使用。「装釘…

カラフトの満漢日文史料 ナヨロ文書

カラフトの満漢日文史料: 中見立夫(東京外大名誉教授)の「満史満学研究劄記」(『満族史研究』18号、2019.12)を読んでいたら、北大図書館所蔵の「カラフトナヨロ惣乙名文書(ヤエンコロアイヌ文書)」が2019年度に重要文化財に指定されたことが出ていた。北…

【坂野潤治先生逝去にあたり思い出すこと】

東京大学出版会でわたしが編集局に配属されたのは1980年。その時点で、坂野先生の担当者は、『明治憲法体制の確立』の編集者渡辺勲と、『教材日本憲法史』の編集者羽鳥和芳という先輩がいた。それぞれ『日本近代史』と『日本憲法史』との執筆を先生と約束し…

ザビエル像:茨木市立キリシタン遺物史料館

昨日、上野の東京国立博物館の「桃山」展を見に行った。時間予約制で、混んではいないため、見たいものをゆっくり見ることができる。国宝クラスの沢山の逸品の中で、嬉しかったのは「聖フランシスコ・ザビエル像」。初めて実物をゆっくり見て、その万葉仮名…

追悼 渡辺毅先生(「ぼくたちの〈日露〉戦争」の作者)

作家の渡辺毅先生が8月24日に亡くなられた。享年86.わたしにとっては宮城県古川高校の時の現代国語の先生である。樺太生れで、その体験を活かした「ぼくたちの〈日露〉戦争」で坪田譲治文学賞を受賞。同作品は集英社の『戦争と文学17巻 帝国日本と朝鮮・樺…

南原繁研究会第9回夏期研究発表会:高橋勇一 伊藤貴雄 大庭治夫 川口雄一 山口周三

昨日午後は、南原繁研究会 第 9 回夏期研究発表会。対面とリモートとの双方で行われた。参加者は16+14人。司会の前半は宮崎文彦、後半は栩木憲一郎。5人による発表は、試論・私論的なものも含めて教えられるところが多いものだった。 《高橋勇一 「南原繁…

『堺利彦伝』

『堺利彦伝』(中公文庫、1978) これは、万朝報に入るまでの前半生をまとめたものだが、素晴らしくいい。生れ故郷の豊前豊津での幼時を描いた精細な文章の郷愁あふるる情感、また、成長の過程で出会った多様な人物を簡潔に描く愛情あふるる観察。感服する。…

『日本政党史論』全7巻復刊と升味準之輔 

2010年8月13日、升味準之輔先生が亡くなられた。もう10年になる。逝去後、2011年12月、手沢本の書き込みを反映した『日本政党史論』全7巻を御厨貴先生の解説を付して復刊した。復刊に関する当時の拙文を以下に掲載する。(初出は、大学出版部協会ニュースな…

戦後初期に原爆の国際法違反を訴えた弁護士 岡本尚一

広島市長を務めた平岡敬がジャーナリスト時代に著した『無援の海峡 ヒロシマの声、被爆朝鮮人の声』(影書房、1983年)を読んでいて、原爆投下を国際法違反とみなし、米国や投下の責任者を裁くことはできないか、と世に訴えた弁護士がいることを知った。岡本…

吉野作造と真山青果と佐左木俊郎

昨日は、茅ヶ崎の古書店で、日本近代文学研究者の岩佐壮四郎先生(関東学院大学名誉教授)と偶然にお会いし、日本の自然主義文学また作家の真山青果などについてお聞きできたのは僥倖。ちょうど、真山青果(1878年生れ)仲立ちとして、吉野作造と佐左木俊郎…

佐左木俊郎と吉野作造:「土百姓」ということ

宮城県大崎市生まれの吉野作造と佐左木俊郎との共通点のひとつは、自らを「百姓」「土百姓」の裔と称したことである。例えば、吉野は、1925年6月17日の日付を持つ自己紹介文(教え子に与えた写真に裏書きしたもの)次のように書いている(『吉野作造選集 12…

書評を書くということ

書評にあたっては、前提として⓪本を読まないで書く芸当はしないこと、そして心掛けているのは、①本を読んでいない人でも概要が分かること、②本を読んだ人には共感できる部分があると思ってもらうこと、③著者にはそのような読み方があるのかと思わせること、④…

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わり

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わりについて述べておく。『和蘭美政録』とは、「ヨンケル・ファン・ロデレイキ一件」と「青騎兵並右家族供吟味一件」という二編のオランダ探偵小説に訳者の神田孝平が付したタイトル…

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読む:未成の思想

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読了。1995年はヒロシマへの原爆投下から50年目であり、本書は、ジャーナリストを経て当時広島市長に就いていた著者がヒロシマについて語りヒロシマから語ったことを中心に編まれている。四半世紀ほど前の表現で…

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文より

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文よりーー《私が書物の印刷を始めたのは、美への明確な要求を持つと同時に、読みやすくして眼をちらつかせず、またことさらに風変わりな字形によって読者の知力を乱すようなことのない書物を作…

佐左木俊郎探偵小説選に寄せたエッセイ

『佐左木俊郎探偵小説選 I』(竹中英俊・土方正志編、論創社)が8月に刊行予定。続刊の同 Ⅱ 巻に寄せるエッセイを本日書き上げて編集部に送付した。400字40枚。 2018年3月に執筆依頼を受けてからの二年余、どう書いたらいいか頭から離れることがなかった。…

丸山眞男『日本政治思想史研究』とわたし

2013/07/19 作文する必要があり、丸山眞男『日本政治思想史研究』(東京大学出版会、新装版、1983)を取り出していたら、当時、上司の指示により、この新装版の本作りを手伝った30年前のことが蘇ってきた。丸山先生との話し合いにより、新しく組むにあたって…

「東京」「東亰」

慶応4年(1868)7月17日、「江戸ヲ東京ト称ス」との詔書が発せられ、江戸から東京に改称されました。この「東京」という言葉は江戸以前からあって、読み方も「トウキョウ」と「トウケイ」の二つがあり、明治30年代の国定教科書により「トウキョウ」に統一さ…

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)を読む

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)読了。これは、著者が中国新聞記者時代に各誌に書いた文章をまとめたもの。半世紀を経るものだが、驚くほど今日の状況を撃つものだ。日本の植民地責任と戦争責任、日本人被爆者と朝鮮人被爆…

吉川幸次郎『本居宣長』について

吉川幸次郎『本居宣長』について 「近世日本最大の学術出版人」と私が見ています本居宣長について記します。 7月9日の京都フォーラムに参加するため、前日に新幹線に乗ったのですが、そののぞみ車中で吉川幸次郎『本居宣長』(筑摩書房 1977)を読み終えまし…

日本読書組合版宮沢賢治文庫

21170202 【日本読書組合版宮沢賢治文庫】昨日、英宝社の社長の佐々木元さんと会っていて思い出したことがある。英宝社は、ジョン・ロナルド・ブリンクリー(1887-1964) が初代社長として創設された出版社であるが、実務の中心は、2代目社長となった佐々木…

丸山真男の鍛治隆一宛て書簡:東京大学出版会前後

東大出版会の前身の一つである東大協同組合出版部(1946年秋に活動開始)には、出版企画についての顧問会があり、そのメンバーは、渡辺一夫、福武直、中野好夫、丸山眞男、宮原誠一であると『東京大学出版会 50年の歩み』にある。その具体的な裏付けを、丸山…

ジャコメッティと矢内原伊作 2019

2019/07/08 国立国際美術館で「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅰ」が開催中(8月4日まで) 《20世紀最大の彫刻家であるジャコメッティの研究において、哲学者・矢内原伊作(1918-1989)の存在はとても大きなものです。矢内原は1956年から1961年の間に…

鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」

2012/07/03 鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」を週末に読み終えた。なかなか文語文はつらい(また片仮名の「ヱヌス」が「ヴィーナス」であることは注記なしには分らない)が、それでも、鷗外の自覚的な文章統御意識による緊密な文体と形式…

是枝監督『万引き家族』

2018/07/03 昨日は、東京日比谷のTOHOシネマズで是枝監督の『万引き家族』を観て来ました。観る前と後とで、日比谷や銀座の街の風景と歩く人々が違って見えました。是枝作品はこれまで『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』を観ていますが、いず…

大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」:吉野作造との交流

昨日茅ヶ崎の川上書店で『ヒストリアちがさき』第12号(2020-3)を購入。充実した中身で120頁もあるのに税込200円という驚くべき格安。目当ては大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」。雨の大阪に向かう新幹線車中で読み終えた。 高田畊安(こうあん;1861-1945)は、…

植村邦彦『隠された奴隷制』

今日は、マルクス研究者の植村邦彦教授(関西大学教授) を講師として、近著『隠された奴隷制』(集英社新書)をテキストとした学習会@大阪。同時代の奴隷制を肯定して自身がカロライナ植民地に奴隷を所有していたジョン・ロックから、モンテスキュー、ヴォル…

バリューブックスのオンラインツアーに参加

昨日は、長野県上田市を拠点として、中古本などの売買を業としているバリューブックスのオンラインツアーに参加した。中村和義さん他のスタッフによる案内で、個人宅から宅急便で入庫する様子から、再販売の可不可の判断、買い値の査定、再販売へのデータ入…