日本:ニッポン、ニホン

「日本」をどう発音するか。戸板康二折口信夫座談』(中公文庫 1978)で、折口信夫は、1946年時点で、太平洋戦争中は「ニホン」に勢力があり、戦後は「ニッポン」が増えているといい、昔の日本語にはパ行の音がなかったので、「ニッポン」と発音するのはいかがか、と言っていたことが紹介されている。意外に思った。なんとなく戦前は「大ニッポン帝国憲法」で「ニッポン」が優勢と思っていた。
 折口信夫は、言葉に人一倍敏感な人であるだけに、ここで紹介されていることは重要であると思う。オリンピックやサッカーの応援などで「ニッポン」と連呼するのは、極めて戦後的な現象なのだろうか。

 ちなみに、キリシタン版の「日葡辞書」「ロドリゲス日本大文典」には、ニホン、ニッポンとありますが、どちらが優勢だったのか? 日葡辞書には ジッポンともある。また、ヘボンの「和英語林集成」では、見出しとして Nippon を挙げています。「日本」は昔々から、いろいろと発音され、一つでない。それが、またいいのかもしれない。

戸板康二折口信夫座談』(中公文庫 1978)読了。これは、昭和20年の春から23年の5月まで、折口に親しく接した戸板康二による「折口言行録」。論文などではうかがい知れないヴィヴィッドな折口の語りと生活が記録されている。折口について知るだけでなく、太平洋戦争の敗戦前後の様相も知ることができる。ただし、折口の言行をどう読みどう意味付けるかは簡単ではないが。