『日本政党史論』全7巻復刊と升味準之輔 

2010年8月13日、升味準之輔先生が亡くなられた。もう10年になる。逝去後、2011年12月、手沢本の書き込みを反映した『日本政党史論』全7巻を御厨貴先生の解説を付して復刊した。復刊に関する当時の拙文を以下に掲載する。(初出は、大学出版部協会ニュースな…

戦後初期に原爆の国際法違反を訴えた弁護士 岡本尚一

広島市長を務めた平岡敬がジャーナリスト時代に著した『無援の海峡 ヒロシマの声、被爆朝鮮人の声』(影書房、1983年)を読んでいて、原爆投下を国際法違反とみなし、米国や投下の責任者を裁くことはできないか、と世に訴えた弁護士がいることを知った。岡本…

吉野作造と真山青果と佐左木俊郎

昨日は、茅ヶ崎の古書店で、日本近代文学研究者の岩佐壮四郎先生(関東学院大学名誉教授)と偶然にお会いし、日本の自然主義文学また作家の真山青果などについてお聞きできたのは僥倖。ちょうど、真山青果(1878年生れ)仲立ちとして、吉野作造と佐左木俊郎…

佐左木俊郎と吉野作造:「土百姓」ということ

宮城県大崎市生まれの吉野作造と佐左木俊郎との共通点のひとつは、自らを「百姓」「土百姓」の裔と称したことである。例えば、吉野は、1925年6月17日の日付を持つ自己紹介文(教え子に与えた写真に裏書きしたもの)次のように書いている(『吉野作造選集 12…

書評を書くということ

書評にあたっては、前提として⓪本を読まないで書く芸当はしないこと、そして心掛けているのは、①本を読んでいない人でも概要が分かること、②本を読んだ人には共感できる部分があると思ってもらうこと、③著者にはそのような読み方があるのかと思わせること、④…

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わり

「日本最初のミステリー小説」と言われる『和蘭美政録』と吉野作造との関わりについて述べておく。『和蘭美政録』とは、「ヨンケル・ファン・ロデレイキ一件」と「青騎兵並右家族供吟味一件」という二編のオランダ探偵小説に訳者の神田孝平が付したタイトル…

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読む:未成の思想

平岡敬『希望のヒロシマ』(岩波新書、1996) を読了。1995年はヒロシマへの原爆投下から50年目であり、本書は、ジャーナリストを経て当時広島市長に就いていた著者がヒロシマについて語りヒロシマから語ったことを中心に編まれている。四半世紀ほど前の表現で…

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文より

ウイリアム・モリスのケルムスコット・プレス立ち上げの際の一文よりーー《私が書物の印刷を始めたのは、美への明確な要求を持つと同時に、読みやすくして眼をちらつかせず、またことさらに風変わりな字形によって読者の知力を乱すようなことのない書物を作…

佐左木俊郎探偵小説選に寄せたエッセイ

『佐左木俊郎探偵小説選 I』(竹中英俊・土方正志編、論創社)が8月に刊行予定。続刊の同 Ⅱ 巻に寄せるエッセイを本日書き上げて編集部に送付した。400字40枚。 2018年3月に執筆依頼を受けてからの二年余、どう書いたらいいか頭から離れることがなかった。…

丸山眞男『日本政治思想史研究』とわたし

2013/07/19 作文する必要があり、丸山眞男『日本政治思想史研究』(東京大学出版会、新装版、1983)を取り出していたら、当時、上司の指示により、この新装版の本作りを手伝った30年前のことが蘇ってきた。丸山先生との話し合いにより、新しく組むにあたって…

「東京」「東亰」

慶応4年(1868)7月17日、「江戸ヲ東京ト称ス」との詔書が発せられ、江戸から東京に改称されました。この「東京」という言葉は江戸以前からあって、読み方も「トウキョウ」と「トウケイ」の二つがあり、明治30年代の国定教科書により「トウキョウ」に統一さ…

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)を読む

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)読了。これは、著者が中国新聞記者時代に各誌に書いた文章をまとめたもの。半世紀を経るものだが、驚くほど今日の状況を撃つものだ。日本の植民地責任と戦争責任、日本人被爆者と朝鮮人被爆…

吉川幸次郎『本居宣長』について

吉川幸次郎『本居宣長』について 「近世日本最大の学術出版人」と私が見ています本居宣長について記します。 7月9日の京都フォーラムに参加するため、前日に新幹線に乗ったのですが、そののぞみ車中で吉川幸次郎『本居宣長』(筑摩書房 1977)を読み終えまし…

日本読書組合版宮沢賢治文庫

21170202 【日本読書組合版宮沢賢治文庫】昨日、英宝社の社長の佐々木元さんと会っていて思い出したことがある。英宝社は、ジョン・ロナルド・ブリンクリー(1887-1964) が初代社長として創設された出版社であるが、実務の中心は、2代目社長となった佐々木…

丸山真男の鍛治隆一宛て書簡:東京大学出版会前後

東大出版会の前身の一つである東大協同組合出版部(1946年秋に活動開始)には、出版企画についての顧問会があり、そのメンバーは、渡辺一夫、福武直、中野好夫、丸山眞男、宮原誠一であると『東京大学出版会 50年の歩み』にある。その具体的な裏付けを、丸山…

ジャコメッティと矢内原伊作 2019

2019/07/08 国立国際美術館で「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅰ」が開催中(8月4日まで) 《20世紀最大の彫刻家であるジャコメッティの研究において、哲学者・矢内原伊作(1918-1989)の存在はとても大きなものです。矢内原は1956年から1961年の間に…

鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」

2012/07/03 鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」を週末に読み終えた。なかなか文語文はつらい(また片仮名の「ヱヌス」が「ヴィーナス」であることは注記なしには分らない)が、それでも、鷗外の自覚的な文章統御意識による緊密な文体と形式…

是枝監督『万引き家族』

2018/07/03 昨日は、東京日比谷のTOHOシネマズで是枝監督の『万引き家族』を観て来ました。観る前と後とで、日比谷や銀座の街の風景と歩く人々が違って見えました。是枝作品はこれまで『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』を観ていますが、いず…

大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」:吉野作造との交流

昨日茅ヶ崎の川上書店で『ヒストリアちがさき』第12号(2020-3)を購入。充実した中身で120頁もあるのに税込200円という驚くべき格安。目当ては大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」。雨の大阪に向かう新幹線車中で読み終えた。 高田畊安(こうあん;1861-1945)は、…

植村邦彦『隠された奴隷制』

今日は、マルクス研究者の植村邦彦教授(関西大学教授) を講師として、近著『隠された奴隷制』(集英社新書)をテキストとした学習会@大阪。同時代の奴隷制を肯定して自身がカロライナ植民地に奴隷を所有していたジョン・ロックから、モンテスキュー、ヴォル…

バリューブックスのオンラインツアーに参加

昨日は、長野県上田市を拠点として、中古本などの売買を業としているバリューブックスのオンラインツアーに参加した。中村和義さん他のスタッフによる案内で、個人宅から宅急便で入庫する様子から、再販売の可不可の判断、買い値の査定、再販売へのデータ入…

中山義秀「碑」「切支丹屋敷」を読む

中山義秀(1900-69)の中編「碑(いしぶみ)」を読む。中山は福島県白河市の生れ。「厚物咲」で1938年芥川賞受賞。翌年発表の「碑」は、祖父をモデルとしたものと言われ、下級武士の家に生まれた性格を異にする三兄弟が、幕末に佐幕派として、尊攘派として、そ…

【戦中に刊行された『頼山陽詩抄』について】

『頼山陽詩抄』(岩波文庫)を読む。これは、頼成一と伊藤吉三の訳注で、頼山陽の代表的な詩三百篇を収録している。第1刷は1944年に刊行されたもので、わたしの手元にあるのは岩波文庫創刊70周年記念として1997年3月に復刊された第3刷。半世紀かかって3刷…

丸山眞男と福沢諭吉:平石直昭の論考

昨6/9日は、『丸山眞男講義録別冊一、二』(東大出版会)の刊行を記念した 公開セミナー「丸山眞男の講義:政治思想史家丸山眞男は講義を通して何を訴えようとしたか」(主催:東京大学校友会ほか)に出るため久々に東大本郷へ。山辺春彦講師が『講義録別冊』…

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』(小学館、1989)読了。矢嶋楫子(1833-1925)は女子学院院長をなどを務めた教育者、かつキリスト教婦人矯風会を率いた社会運動家。著者はこの自らの作品について「単なる伝記の抄出のようでいて伝記でもない。小説に似て…

中村武羅夫の辻堂

藤沢市辻堂西海岸の勘久公園を訪れた。ここは、北海道は岩見沢の出身である編集者・作家の中村武羅夫(1887-1949)が1921年に別荘を建てその後住まいとした地。辻堂駅から南に約15分の距離。跡地は勘久公園として整備され、中村の文学碑「誰だ 花園を荒らす者…

頌 土方正志

頌 土方正志(20160309) 5年を迎える東日本大震災の起きた3月11日が近づいてきて、落ち着かない気持ちでいる。そのような中、今日は、東京は神田神保町の東京堂書店で開かれた《『震災編集者――東北のちいさな出版社〈荒蝦夷〉の5年間』刊行記念 土方正志さ…

編集記

【回想】わたしは、30代は、東京大学出版会の編集者として、出版方針の一つの柱として尽力したのは、日本戦後史をテーマとしたものである。特に、日本が降伏したのちGHQによって統治された占領戦後史を重点的に出版の焦点に据えた。これには理由がある。アメ…

佐左木俊郎と夢野久作

夢野久作の佐左木俊郎宛書簡が国書刊行会版『夢野久作全集6』月報の土方正志「夢野久作と佐左木俊郎」で紹介されている。それによると、日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる夢野久作『ドグラ・マグラ』の原稿は、最初、作家であり新潮社の編集者であっ…

南原繁の丸山眞男宛て書簡、『形相』についての留意点

「南原繁書簡 丸山眞男宛 21通」が『東京女子大学比較文化研究所附置丸山眞男記念比較思想研究センター報告』(2019.3) に掲載されている。特に戦前の8通は今回初めての公開と思われる。その中に南原の歌集『形相』に収録されなかった歌も書簡中にあるのも…