犬田卯著/小田切秀雄編『日本農民文学史』(農文協1958)を読む

犬田卯『日本農民文学史』(農文協1958)読了。戦前の左翼農民文学運動について今日おそらく誰も関心を示すことのないのではないかと密かに思いつつ、本書をひもどいた。「種蒔く人」を源流としつつ1924年に小牧近江、吉江喬松、中村星湖、加藤武雄、佐左木俊郎らと日本初の農民文学運動の組織「農民文芸研究会」をつくり、農民自治を主張して、一貫して主導したのが犬田卯(1891−1957)である。今日では、住井すゑの夫と言った方がまだ通用するだろうか。

農民文学運動内のマルクス主義アナーキズムとも対立しつつ、またインテリゲンチャ主導のプロレタリア文学運動と対立しつつ、農民自治主義・自由連合を掲げてのジグザグした歩みが描かれている。そして、機関誌『農民』の発禁続きの中で、1933年廃刊。その孤立し、刀折れ矢尽きていく様は凄まじい。

本書は、犬田の遺稿を小田切秀雄が編集したもので、小田切による詳しい解説と、日本近代文学史年表が加えられていて、大いに役に立つ。

装幀が佐藤忠良であるのもいい。

(それにしても、犬田卯が、同時代の官憲による共産党弾圧、プロレタリア文学運動弾圧などについて一切触れていないのは、彼が反プロ文学の立場であるとはいえ、驚かざるを得なかった。)