徳永直『光をかかぐる人々 日本の活字』(河出書房1943)を読む

『光をかかぐる人々 日本の活字』(河出書房1943)を青空文庫で読む。これは、日本における活字印刷の誕生を追いかけたもの。小説的造形としては不十分なエッセイ風の長編であるが、作者自身、若い時から印刷工として働き、またプロレタリア文学の代表作で共同印刷労働争議をめぐる人々や街を描いた『太陽のない街』の著者であるだけに、作者の思いが伝わってくる好編である。

 日本の活字印刷に多大な貢献をなした本木昌造を主軸として描かれているが、本木伝としてのみならず、キシリタン期から幕末期に至る、世界史的背景の中で捉えようとした点が特徴的である。そして、上海での美華書院でのウィリアム・ギャンブルなどの漢字活字の創始をも視野に入れていて、日本礼賛的なショーヴィズムにも陥っていないことに感心した。その点、文芸評論家の小田切秀雄が「日本においての活字印刷の労苦の歴史を人間中心に淡々と描くというやり方で戦争と軍国主義へのじみな抵抗の心をしめしていた」と評したこともうべなうことが出来る。

 ただし本作は、作者の構想の第一部である。続編が戦後に雑誌連載されたというが、それは単行本化されず、読むことができないでいる。

 そしてまた、あとがきにあたる「作者言」で《本書の印刷についても精興社の活字字形が好きなために、河出書房の澄川稔氏に無理を云つて、頼んでもらつた。精興社主白井赫太郎氏をはじめ、本書の製版、印刷、製本などに從事して下さつた人々にお禮を申上げたい。》と述べているのも好感を抱く。

 初版装幀は青山二郎

 目次は以下の通り。

 一 日本の活字/二 サツマ辭書/三 長崎と通詞/四 よせくる波/五 活字と船/六 開港をめぐつて/七 最初の印刷工場/作者言