伝説の江川書房の本:嘉村礒多『途上』限定500部
江川書房の本:嘉村礒多『途上』限定500部、函入り、1932年8月。「秋立つまで」「途上」の二篇を収録。題字は嘉村礒多。印刷は白井赫太郎。製本は中野利一。函、表紙、本文用紙、すべてに越前手漉楮紙を使用。装幀と刊行は江川正之。
この『途上』は江川書房による「純粋造本」の中でも傑作とされる評価の高い一冊。ウィリアム・モリスの言う《用紙、活字の形、字と語と行を結ぶ相対的な間隔、そして最後に、頁の上に印刷される版面の位置》を日本語版として充分に満している。
本文の活字のシャープさは比類ない。君塚樹石が開発したばかりの精興社活字である。越前手漉楮紙に原版刷で印刷。凹凸感。嘉村礒多の起伏のある文体と相まって、愛おしいほどである。
あえて瑕疵を述べるならば、印刷される版面の美しさを追求するあまり、ノンブルや柱を紙面から追放したこと、目次を外したこと。この点は、果たしてどうなのだろうか。美の追求が機能を毀損してはいまいか。
(わたしの所蔵本は、131番。奥付のこの数字は、他の活字と不調和であることも難点である。)