黒岩比佐子『パンとペン』

2013年4月28日

大逆事件百年の2010年の10月に上梓された黒岩比佐子『パンとペン』を読んだ。日本の先駆的な非戦論者・社会主義者である堺利彦の活動、特に社会主義「冬の時代」と言われた1910年代堺が拠った売文社での活動を描いた佳作である。
本書の特徴の第一は、著者が、日本の社会主義史の既成の見方から距離をとって日本文学史・近代史に取り組んだ、その斬新な視角である。
第二は、これまでに知られていない、あるいは注目されてこなかった資料に光をあて、新しい事実を掘り起こし、堺を中心とした人々の広い繋がりを浮き彫りにした、徹底的な資料博捜である。
第三は、登場人物に注がれた著者の温かい視線、特に堺利彦に向けられた著者の愛情である。これが行間に溢れていて、読むものの感情を豊かに揺さぶる。
著者は、本書を仕上げる最中に発病し、刊行した翌月に逝った。上梓できたことの喜びと命尽きることの無念。

個人的には、出版人としての我らの先達である堺利彦の事績に大いなる刺激を受けた。