林子平『海国兵談』自費出版
2014年4月28日
『季刊創文』No.13(2014春)の村上哲見「江戸時代出版雑話」が面白い。日本の書籍出版は、仏典から始まり、漢籍の翻刻、かな文字の古典に及んだことを示し、そしてこれら「物の本」を「本」というのであって、通俗読み物や絵本などは「本」ではなく「草紙」と呼ばれ、取り扱う業者も本屋と草紙屋は区別されていたという。
「江戸時代出版雑話」は、『三国通覧図説』(版元は須原屋市兵衛)を著して好評を得た林子平が、引き受けての本屋がなかった『海国兵談』を自費出版すべく、本屋に見積もらせた経費の一覧を紹介している(1000部の場合)。「彫賃」が総額の1割に対し「紙と表紙」で7割。人件費が安く紙代が極めて高かったことが分かる。
出版費用を苦心算段してようやく刊行した『海国兵談』は、たちまち咎められて版木は没収、林子兵は国元蟄居。その心境を「親も無し 妻無し子無し版木無し 金も無けれど死にたくも無し」と嘆き「六無斎」と自嘲。須原屋市兵衛も咎められ、既刊の『三国通覧図説』も絶版、重過料を科せられ、以後没落していくことになる。