石川九楊『日本の文字』(ちくま新書 2013)は、漢字・漢詩・漢文・漢語の流入する前の日本に万葉語が存在したのではないという。

2018/04/04

石川九楊『日本の文字』(ちくま新書 2013)は、漢字・漢詩・漢文・漢語の流入する前の日本に万葉語が存在したのではないという。
《古代日本にも固有の言語は存在し、その土着的な言葉を用いて生活を営んではいただろう。弓なりの列島の永い歴史のなかでそうした古代の言葉が整理され、やがて漢詩に啓発されて、五音、七音の五七五七七という音数律形式を備えた土着語主体の詩が習作されるようになる。そのときに万葉語と、万葉歌が生れたのである。
つまり、万葉語は日本に古くからあらかじめ存在したのではなく、漢字や漢詩、漢文、漢語の流入を契機としてこれを咀嚼し、その結果として、土着語が再発見され、これを漢字(万葉仮名)で書くことによってあらたに万葉歌と万葉語が定着しつくられたのである。
漢字(万葉仮名)によって書かれた文が『古事記』であり、漢字(万葉仮名)によって書かれた万葉歌を集めたものが『万葉集』である。万葉仮名の段階に至って日本ははじめて、漢文・漢詩から逸脱した文と詩が可能になったのである。》44-45頁