津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』全8巻(岩波文庫1977-78)

所蔵している津田左右吉『文学に現はれたる我が国民思想の研究』全8巻(岩波文庫1977-78)を本棚の奥から久しぶりに取り出してみた。これは1916年から刊行開始された東京洛陽堂版の初版本を底本としたもの。したがって出版書肆を世話したと思われる坪内逍遥の「序」もある。逍遥は本書を「国文学史」の著作として推奨している。なるほど。

この岩波文庫版を私が苦労しながら通読したのは1980年前後。当時は、『ユリイカ』『現代詩手帖』『現代思想』を定期購読しながら日本古典文学に親しんでいた。国文学の通史を知るための必読書として津田著を読んだのだが、いかんせん、出てくる漢詩漢文が全く読めなかった。今となっては「恋愛」であるべきところが「変愛」と誤植されているところや、東北出身者としてひそかに誇りとしていた奥州平泉文化についての津田の全面否定的評価がなされていたことに驚いたことしか記憶にない。

いっぽう、積ん読のままの歴史学者五味文彦『文学で読む日本の歴史』全5巻(山川出版社2017-20)を開いてみたら、その参考文献に丸山眞男丸山眞男講義録』全7巻と並びこの津田著が挙げられている。津田著が、歴史学、思想史、文学史の基本文献として今日も評価されていることがうかがえる。

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追記 

2011年の『没後50年 津田左右吉展』の展示録が書庫から出てきた。この展示会は見ていないが、2012年1月12日に東京大学出版会退職の挨拶に早稲田大学関係者に挨拶に行った時に、同大学高田早苗研究記念図書館で購めたものと記憶する。72ページにわたる充実した内容。

1961年12月4日に亡くなった津田を追悼する、翌12月5日の朝日新聞朝刊に掲載された南原繁の記事「津田左右吉博士のこと」の写真も掲載されている。「国を思い、歴史を考え、学問への精進にのみ生きた博士」という南原繁の誄詞は、津田左右吉の本姿をうがっているように思える。

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