斎藤勇と新渡戸稲造:米国講座叢書のつながり

20110421

斎藤勇と新渡戸稲造:米国講座叢書のつながり

 英文学研究の斎藤勇の著書に『アメリカの国民性及び文学』がある。1942年有斐閣刊。これは「米国講座叢書」の第5編として刊行されている。東大法学部の「アメリカ政治外交史」講座の前身「米国憲法、歴史及外交」(通称、ヘボン講座)での前年1941年11月の3,4回の講義をまとめたものである。まさに、真珠湾の直前。「ほめるのでもなく、けなすのでもなく、ありのままにアメリカン・キャラクターを見たい」という趣旨で講義をしたという。
 文学部教授の斎藤勇が法学部で「文学」というタイトルのついた講義をしたのは、ヘボン講座担任の高木八尺の依頼によってであった。ヘボン講座は、1918年2月9日に開講式をしているが、開設にあたっては、美濃部達吉による米国憲法新渡戸稲造による米国史吉野作造による米国外交についての特別講義が行われ、吉野作造のを除いて、「米国講座叢書」の名で刊行された。第1編が美濃部『米国憲法の由来及特質』(1918年)、第2編が新渡戸『米国建国史要』(1919年)である。
 この叢書のほかのものを挙げると、第3編が、ジョンソン博士講述、高木八尺・松本重治共訳『米国三偉人の生涯と其の史的背景』(1928年)、第4編が、講座専担の高木による『米国政治史序説』(1931年)、第5編が上述の斎藤『アメリカの国民性及び文学』(1942年)、そして第6編が都留重人『米国の政治と経済政策:ニューディールを中心として』(1944年)である。叢書刊行のタイムスパンが長いが(長すぎる!)、法学部という枠を超えた「総合的アメリカ研究」を意図した布陣とテーマとを見て取ることができよう。
 注目したいのは、新渡戸稲造である。新渡戸の第一作は英文の『日米関係史』(The Intercourse between the Unitede States and Japan:Historical Sketch)であり(これは1891年にジョンズ・ホプキンズ大学出版局から刊行されている)、上記『米国建国史要』も勘案すると、新渡戸はアメリカ研究の先駆者として位置付けることができる。新渡戸は、英文『武士道』などで日本を外国に紹介するとともに、アメリカを日本に紹介する役割を果たしていたことになる。
 
 なお、斎藤真「草創期アメリカ研究の目的意識:新渡戸稲造と『米国研究』」は、すぐれた新渡戸研究である。この論考が収録されている細谷千博・斎藤真編『ワシントン体制と日米関係』(東京大学出版会、1978年初版)は、重版され、現在も入手可能である。
 また、東大教養学部アメリカ研究資料センター発行の『斎藤勇先生に聞く:アメリカ文学研究への径路』(アメリカ研究オーラルヒストリー・シリーズ、Vol.7)も、日本のアメリカ研究を考えるうえでの重要文献である。非売品だが、東大大学院総合文化研究科附属アメリカ太平洋研究センターの図書室にある。