札幌の天地・佐藤昌介、新渡戸稲造、宮部金吾、有島武郎:裳華房、北海道大学出版会

20110829

札幌の天地・佐藤昌介、新渡戸稲造、宮部金吾、有島武郎裳華房北海道大学出版会

8月24-27日、札幌で大学出版部協会夏季研修会が開かれた。主催者が養視された宿泊先が全日空ホテルであり、そこでたまたま、土産としてミルククッキー「札幌農学校」を買った。そのホテルの敷地は1876年創設の旧札幌農学校の跡地の北東にあたり(敷地の南西に移築されたのが札幌農学校の演武場=時計台である)、そこには教員の官舎があった。創成川に東面したこの地に、かつて、新渡戸稲造・メリー夫妻が生活し、宮部金吾が住み、学生の有島武郎が新渡戸宅に寄宿したのである。
次のサイトの写真の通り、ミルククッキー「札幌農学校」の包装紙には、エンレイソウの校章入りで「北海道大学認定」とある。また北大の前身である札幌農学校の英文名 Sapporo Agricultural Collegeも刷り込まれ、校章も興味深い。なるほど、日本最初の学位授与権をもった高等教育機関札幌農学校であったことが、よくわかる。 http://t.co/R017xMz
このミルククッキー「札幌農学校」を製造発売しているのは、北大の卒業生が経営している「きのえね」である。北大の許可を得て2005年から発売したとあり、当初は、その前の台風で大きな被害が出た北大のポプラ並木の再生に寄与することを意図したという。2004年の国立大学法人化による、大学の活動の独自化とも関連しているだろう。
実は、ミルククッキーの包装のデザインは、明治31年札幌農学校学芸会が編集した刊行物『札幌農学校』に基づいている。その覆刻版の刊行が幾度かなされ、近年では北海道大学出版会から2005年に刊行されている。http://t.co/GeEOyr0
この『札幌農学校』の版元は裳華房である。同じ明治31年裳華房は「札幌農大叢書」あるいは「札幌叢書」というシリーズ名で、その第一冊にあたる新渡戸稲造『農業本論』を刊行している。叢書には佐藤昌介や宮部金吾、そして新渡戸のもう一冊の本(結局、実現しなかった)も予告されている。この、タイトル未定、執筆者未定の、一大出版構想を眺めると、さながら裳華房札幌農学校の出版部の様相を呈していて、親しみを感じる。
ただし、裳華房は、この大構想の実現にはいたらず(札幌農学校の位置の不安定もからんでいると思われる)、また新渡戸のベストセラー Bushido の刊行で新渡戸とトラブルを抱えることとなるが、それは後年のことである。