伊藤整の「石狩」と石狩川捷水路

伊藤整「石狩」を読了。初出は単行本の『石狩」(版画莊文庫、1937年)。伊藤整小樽市郊外の塩谷で育った。小樽までは歩きで1時間半ほどかかる。塩谷海水浴場があり、この小説にも登場する。10代後半の主人公の知り合いの女性二人をめぐる心の葛藤を主として描いたもので、その上で主人公が家出同然にして、幼馴染が売春をしていると思われる石狩村を訪ね、灯台のある砂丘で海をながめながらの心の移ろいを描写する。

興味深いのは、札幌のどこかから馬車鉄道に乗り、治水工事をしている石狩川の船着場から渡し船に乗り、石狩川を渡って石狩村に行く場面で、この治水工事の様子が描かれていることである。おそらく伊藤整自身が目撃したものであろう。それは1918年に始まり1931年に完工した「生振(おやふる)捷水路」である。

この捷水路工事については、たくさんの考察がある。その中で伊藤整の描写は、内面を通して同時代を描いたものとして重要であると思う。