山内進『北の十字軍』

山内進『北の十字軍』(講談社選書メチエ 1997; 講談社学術文庫 2011)再読。

ヨーロッパ北方の異教徒をキリスト教化(カトリック化)すべく、ローマ教皇の名の下にバルト地域(西スラヴ・ヴェンデ、プロイセンリトアニアリヴォニアエストニア)そして正教のロシアに進出・侵出しようとした動きを扱った本。その中心にいたのがエルサレムに向かった十字軍の中から生まれたドイツ騎士修道会
本書は、そのドイツ騎士修道会プロイセン及びリトアニアとの凄まじい攻防を描き出すとともに、後にドイツ騎士修道会に吸収されるリヴォニア帯剣騎士修道会リヴォニア騎士修道会リヴォニアエストニア南部とラトヴィア東北部)征服をも扱い、今日のバルト三国の歴史を理解するためにも欠かせない本である。
ここに登場する騎士修道会は常備十字軍というべきもので、その異教徒に対する殺戮は凄まじい。そして著者によれば、プロイセンバルト海沿岸地帯そして今日のバルト三国に派遣された十字軍とその思想は、その後のアフリカとアメリカへの「ヨーロッパの拡大」のひな型を提供するものだったという。
ただし一方、ヨーロッパはこのような異教徒に対する暴力的な支配に反対する強力な思想と勢力も産み出した。異教徒の権利を認めるローマ教皇インノケンティウス4世、神学者トマス・アクィナス、聖職者ラス・カサス、教会法学者パウルス・ウラディミリ、国際法学者ビトリアなどである。
彼らは、その論理の根拠を自然法や万民法に置いていた。非ヨーロッパを征服・植民・従属するヨーロッパと、それを批判するヨーロッパーーそれは、形を変えて今日も続いている。

2018/09/17