佐左木俊郎と小林多喜二 続

f:id:takeridon:20220106231738j:imagef:id:takeridon:20220106231744j:imagef:id:takeridon:20220106231750j:image   小林多喜二立野信之プロレタリア文学論』(天人社1931年3月31日発行、ほるぷ複刻版)読了。この中の多喜二「プロレタリア文学の新しい「課題」」(初出は読売新聞1930.4.19,22)に「芸術派の佐左木俊郎」が出てくる。つまり、多喜二によって、プロ文学とは異なる文学運動を志向していた新興芸術派の一員として佐左木俊郎があげられているのである。ただし戦旗派にいた多喜二の文章は、同じプロ文学陣営の文芸戦線派をおとしめるポレミックなものであって、この文脈では多喜二が佐左木を具体的にどう評価していたかについては明瞭ではないが、文芸戦線派を「ブルジョア朋党」と変らない社会民主主義として批判しているので、それを考慮すると多喜二は佐左木俊郎を新興芸術倶楽部=ブルジョア文学派として位置付けていたように読むことができる。
佐左木俊郎は、1924年加藤武雄や吉江喬松らによって始められた農民文学会に名を連ね、『文芸戦線』に寄稿し、1928年には(多喜二が高く評価する)蔵原惟人の呼びかけになる日本左翼文芸家連合会に農民文芸会を代表して出席している。これらのことについて多喜二が知らなかったとは思えない。新興芸術派倶楽部のメンバーであることにより佐左木俊郎をブルジョア文学派としての位置づけるのは極めて戦術的な評価に見える。
また、『プロレタリア文学論』の後半は立野信之が農民文学を中心としてプロ文学を論じたものだが、立野は佐左木俊郎については言及していない。
なお、この『プロレタリア文学論』は天人社の「新芸術論システム」シリーズの一冊であり、巻末広告によれば、このシリーズには、三木清『新興美学の基礎』、青野季吉『マルクシズム文学論』、蔵原惟人『プロレタリア芸術と形式』、村山知義『日本プロレタリア演劇論』、西脇順三郎シュールレアリスム文学論』、平林初之輔『自然科学と芸術』、板垣鷹穂『現代都市建築論』などがラインナップされており、未刊があるとはいえ、相当に意欲的な布陣を敷いた出版企画であったことが分かる。

 

f:id:takeridon:20220106231730j:image