関川夏央・谷口ジローの劇画『『坊っちゃん』の時代』全5巻(双葉社1987-97)
関川夏央・谷口ジローの劇画『『坊っちゃん』の時代』全5巻(双葉社1987-97)を読み終えた。最初に大逆事件を扱った『第四部 明治流星雨』を読み、これは並々ならぬ力作であると感じ入り、ほかの巻をも読まずばなるまいと思い、入手して読んだのである。
全巻構成と主人公は次の通り。
第一部 「坊っちゃん」の時代
夏目漱石と森田草平と大塚明子
第二部 秋の舞姫
森鴎外とエリスと二葉亭四迷
第三部 かの蒼空に
石川啄木と金田一京介と管野須賀子
第四部 明治流星雨
幸徳秋水と管野須賀子と荒畑寒村
第五部 不機嫌亭漱石
夏目漱石と石川啄木
虚実取り混ぜたフィクションであるが、虚誕としては山田風太郎の明治ものには及ばないながら、谷口ジローの劇画はとても優れたものであり、総体として明治後期の時代と明治人たるものを感じるには、いい入門書である。サブタイトルの「凛冽たり近代 なお生彩あり明治人」の示す通りである。
なかでも傑出しているのは大逆事件を扱った第四巻。幸徳秋水、管野スガ子、堺枯川、荒畑寒村など、また、山県有朋、桂太郎、平沼騏一郎、原敬、そして森鷗外、石川啄木など、直接間接に事件に関わる人物の特徴も捉え見事に描いている。これは、大逆事件の真相が十分に明らかにされていない分、作者らの想像力が事実に迫ろうとする意義込みと迫力が、他の巻と異なり、格段に発揮されたからであると思う。オススメしたい。
なお、石川ジローの描画は高く評価されるべきだが、人物の描き分け、特に女性の顔の描き分けが、十分ではないように思えた。誰なのか分からなくなって、ページをめくり返すことが何度かあった。この力量の持ち主にして何故、という疑問を拭えなかった。
2016/09/19