西川俊作・松崎欣一『福澤諭吉論の百年」

20151208

西川俊作・松崎欣一『福澤諭吉論の百年」(慶応義塾大学出版会、1999)読了。『慶應義塾学報』を前身とする『三田評論』創刊百年を記念して、同誌に掲載された福澤に関する論考・エッセイ・座談会18編を編んだもの。メディアがメディアであるだけに福澤に好意的なものがほとんどだが、選りすぐりのもので、読み応えがある。
国木田独歩の講演「福澤翁の特性」は、もっぱら『福翁自伝』を基にして、自由不覊、独立自尊という福澤の生来の特性に加えて「こくめい(克明)」という美しき副性を持った人物として捉えた好論。フランクリンとの比較なども示唆するところ大である。
岡義武「福澤先生とその国際政治論」、阮章収「ヴェトナム近代における福澤諭吉慶應義塾」、内山秀夫「福澤諭吉と新聞」は、それぞれのテーマに関する傑出した考察である。出版人福澤という私の関心からみて、ジャーナリスト福澤に光を当てた内山論文には多くの教示を得た。
ほかに、福澤諭吉の文字表記を論じた伊藤正雄「『文字之教』について」、大槻文彦言海』と比較しながら考察した山田忠雄福澤諭吉編という幻の伊呂波辞書」も、日本近代以降の文字論、表記論、言語論を考えるうえで、欠かせないものと思う。
福澤諭吉について考察することは、日本近代、東アジア近代を舞台として繰り広げられた政治的・非政治的な総体ーー功罪を含めてーーについて考えることにつながり、その点、『福澤諭吉の百年』は、そのためのいい参考資料の一つであると言えよう。