中江丑吉・市塵の思考者について

今日の南原繁研究会では、南原繁と東京帝国大学法科大学政治学科で同期の中江丑吉(中江兆民の息子)が話題になった。 かつて中江丑吉について、湘南科学史研究会で「中江丑吉・市塵の思考者について」と題して話をしたことがある。その趣旨を研究会員に送っ…

誄詞(石井和夫氏弔辞)

今日は18時から月例の南原繁研究会があり、久しぶりに参加した。 研究会では、8月に逝去された元会員の石井和夫氏追悼の誄詞(るいし)を述べた。石井氏は、丸山眞男『日本政治思想史』を担当した編集者である。以下、その誄詞を掲載する。 誄詞 南原繁研究…

東大出版会理事としての丸山眞男:石井和夫の証言

丸山眞男先生は1957年から1960年までの4年間、東京大学出版会の理事として務められた。その時の様子を編集主任であった石井和夫から聞いた。以下の通り。《石井 当時、東大法学部からは法律と政治と二人の理事が出ることが多かったのです。辻清明先生のあと…

石井和夫氏逝去

東京大学出版会の創業時(1951年)に編集担当責任者の辞令を南原繁東大総長(東京大学出版会初代会長)から発令された石井和夫(1927)が、8月24日に逝去されました。享年95.覚悟していたとはいえ、寂寥感が募ります。 石井和夫については、同氏が2009年に…

佐左木俊郎 大沼渉 松田解子 陀田勘助

親戚の作家の佐左木俊郎と同郷の大沼渉(宮城県大崎市岩出山下一栗出身)をゼロから調べ始め、社会運動の同志である陀田勘助や大沼配偶者の作家松田解子のルートからアプローチしていた。佐左木俊郎は『文学時代』の編集者として松田解子と接触を持っている…

佐左木俊郎と川端康成 メモ

1899年6月14日生まれの川端康成と、1900年4月14日生まれの佐左木俊郎とは、10ヶ月の違いがあるが、同世代の人間である。 川端は、『新潮』1933年5月の文芸時評でも書いている通り、同年3月13日に亡くなった佐左木俊郎の家を弔問しているが、『文芸』1933…

編集者としての佐左木俊郎:佐多稲子と楢崎勤

編集者としての佐左木俊郎の活動を知るには、新潮社の『文章倶楽部』や『文学時代』を通して付き合いのあった作家について調べる必要があるが、その著作や書簡にあたらねばならず、今のところ、川端康成や小林多喜二以外には、手を付けることができないでい…

同伴者作家としての佐左木俊郎:宮本顕治の「同伴者作家」

【同伴者作家としての佐左木俊郎】 宮本顕治「同伴者作家」(1931.4月号) を『宮本顕治文芸評論選集 第一巻』(新日本出版社1980)で読む。トロツキー文学論での同伴者作家の規定に準拠しながら、広津和郎を主とした対象として論じ、広津らは革命的プロレタリ…

転向文学を書いた石坂洋次郎

【転向文学を書いた石坂洋次郎】 『青い山脈』や『石中先生行状記』などで知られる石坂洋次郎を「転向文学者」と呼ぶと違和感を与えるのではないだろうか。わたし自身、そう思っていた。ただ平野謙『昭和文学私史』(毎日新聞社、1977)で石坂の『麦死なず』…

北のまほろば

石坂洋次郎との関連で葛西善蔵について調べていて、そう言えば、旧弘前市立図書館の近くに文学者の碑があったことを思い出した。調べてみたら、今官一文学碑である。 2008年8月、大学出版部協会の夏季研修会で弘前に行った時である。その時は、金木町の斜陽…

田口富久治先生追悼

田口富久治先生追悼2022/06/08 はじめに本日6月8日、田口富久治先生の訃報に接した。共同通信の流した記事。《田口 富久治氏(たぐち・ふくじ=名古屋大名誉教授、政治学)5月23日午前5時8分、老衰のため愛知県日進市の病院で死去、91歳。秋田市出…

真藤順丈『宝島』

真藤順丈『宝島』(講談社) を読了。山田風太郎賞および直木賞受賞作品。沖縄返還に至る戦後史を舞台とした小説であると知り、手にとってみた。400字原稿用紙960枚、四六判540ページの長編であるが、巻置く能わず、一気に読ませる魅力を持った作品だった。本…

中山義秀と佐左木俊郎

今日3/13日は佐左木俊郎の命日である。89 年前、1933(昭和8)年。33歳だった。のこされた美禰子夫人と息子久夫、娘郁子は、美禰子が育った小樽に帰った。そのことは、作家の中山議秀(義秀)による美禰子宛てはがきで確認できる。 佐左木俊郎と交流のあっ…

栗原幸夫『プロレタリア文学とその時代』(平凡社1971)を読む

栗原幸夫『プロレタリア文学とその時代』(平凡社1971)読了。今さらプロレタリア文学ではないでしょうという思いが頻々としながら、しかし、1920年代30年代日本および世界を考えるにあたって、プロレタリア文学をオミットすることはできないと思い、本書を読…

犬田卯著/小田切秀雄編『日本農民文学史』(農文協1958)を読む

犬田卯『日本農民文学史』(農文協1958)読了。戦前の左翼農民文学運動について今日おそらく誰も関心を示すことのないのではないかと密かに思いつつ、本書をひもどいた。「種蒔く人」を源流としつつ1924年に小牧近江、吉江喬松、中村星湖、加藤武雄、佐左木俊…

Press からPublishingへ

わたしは、活版からコンピュータ写植に移行した1990年代初めから、「University Press からUniversity Publishingへ」というスローガンを東大出版会および大学出版部協会で訴えようと考え、英語ネイティヴの方にUniversity Publishing という表現が可能かと…

『闘いの火をかかげ続けて 岡崎一夫のメッセージ』

札幌出身で茅ヶ崎に住んだ岡崎一夫の生涯と事績を記した『闘いの火をかかげ続けて 岡崎一夫のメッセージ』(イクォリティ1993)を雪降る札幌のホテルで読了。岡崎は1899年3月1日札幌生れ。東京帝大法学部を卒業して弁護士となり自由法曹団に加入して、1927年…

佐左木俊郎と小林多喜二 続

小林多喜二・立野信之『プロレタリア文学論』(天人社1931年3月31日発行、ほるぷ複刻版)読了。この中の多喜二「プロレタリア文学の新しい「課題」」(初出は読売新聞1930.4.19,22)に「芸術派の佐左木俊郎」が出てくる。つまり、多喜二によって、プロ文学とは…

筑摩書房編集者 石井立について

(10年前のものですが) 今日12月28日日経新聞文化欄に「昭和文壇支えた編集者魂」という題で北海学園大学の石井耕教授が寄稿している。父は筑摩書房の編集者であった石井立(1923- 64)。立の遺した資料を整理していて気付いた興味深いことを綴っている。ちな…

佐左木俊郎と小林多喜二

『佐左木俊郎探偵小説選Ⅱ』(論創社、2021年3月30日)に「佐左木俊郎の風景」を寄稿したが、新潮社の編集者であり、農民文学・プロレタリア文学も著していた佐左木が、他のプロレタリア作家とどのような繋がりがあるかについては十分に調べることができなかっ…

久保栄『五稜郭血書』

久保栄の戯曲『五稜郭血書』(初出 日本プロレタリア演劇同盟出版部1933)読了。これは築地小劇場創立10周年記念として、新築地劇団・左翼劇場など新劇団による合同公演が、千田是也・久保栄の共同演出でなされたものである。 この作品は、慶応4年=明治元年…

川口大三郎君事件

つらい本を読んだ。新刊の樋田毅『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(文藝春秋) 。今日 11 月8日は奇しくもこの「川口大三郎事件」が1972 年に起きてからちょうど 49 年目の日にあたる。三年生であったわたしも「義憤」にかられ、この革マ…

木下順二『蛙昇天』

木下順二『蛙昇天』を読了。これは「徳田要請問題」(1950年2月、シベリア抑留からの帰還者が、帰還が遅れたのは共産党書記長徳田球一がソ連に要請したことによると主張した事件)により、収容所で通訳を務めた抑留者で哲学徒の菅季治が国会喚問を受けた翌日…

久保栄『火山灰地』を読む

久保栄『火山灰地』(1937-38)読了。久保は1900年、野幌煉瓦工場社長、札幌商工会議所会頭を務めた久保兵太郎の次男として札幌に生まれた。東大でドイツ文学を学び、卒業後、築地小劇場で小山内薫や土方与志から演劇の指導を受けた。その後、新築地劇団、新…

伊藤整の長編自伝小説『若い詩人の肖像』(初版、新潮社、1956) 読了

札幌のホテルで伊藤整の長編自伝小説『若い詩人の肖像』(初版、新潮社、1956) 読了。この作品は、「海の見える町」(『新潮』1954年3月)、「若い詩人の肖像」(『中央公論』1955年9-12月)、「雪の来るとき」(『中央公論』1954年5月)、「父の死まで」(『…

安東と清州の会議(2017年8月)に参加して

【旧稿掲載】 安東と清州の会議に参加して竹中英俊 20171008 この8月、東洋Forum 主幹の金泰昌先生の招きにより、二つの国際会議に参加した。一つは、10日から12日まで、安東の陶山書院sunbi文化修練院で開催された「2017年 嶺南退渓学研究院・陶山書院sunb…

坂手洋二と満田康弘のカウラ事件

坂手洋二の戯曲『カウラの班長会議 side-A』(松本工房、2021.8.20) を読んだ。2014年にオーストラリアのカウラで上演されたこの劇は満田康弘監督のドキュメンタリー映画『カウラは忘れない』にも登場する。これらで扱われるカウラ事件とは、1944年8月5日、…

由井りょう子『黄色い虫 船山馨と妻・春子の生涯』を札幌で読む

船山馨が生まれ青少年期を過ごした札幌の地で、由井りょう子『黄色い虫』(小学館、2010)読了。サブタイトルが「船山馨と妻・春子の生涯」とあるが、内容的には「船山馨の妻・春子の生涯」と言うべきだろう。作家船山馨の作品には思い入れせず、春子の遺した…

関川夏央・谷口ジローの劇画『『坊っちゃん』の時代』全5巻(双葉社1987-97)

関川夏央・谷口ジローの劇画『『坊っちゃん』の時代』全5巻(双葉社1987-97)を読み終えた。最初に大逆事件を扱った『第四部 明治流星雨』を読み、これは並々ならぬ力作であると感じ入り、ほかの巻をも読まずばなるまいと思い、入手して読んだのである。 全巻…

富岡多惠子『湖の南』

富岡多惠子『湖の南』(新潮社)読了。湖とは琵琶湖である。その南、大津が主な舞台。大津に住むようになった著者の随筆的な話しに、明治24年の大津事件の経緯と背景を探る話しで構成されている。特にロシアの皇太子ニコライを襲った大津事件については、津田…