佐左木俊郎探偵小説選に寄せたエッセイ

『佐左木俊郎探偵小説選 I』(竹中英俊・土方正志編、論創社)が8月に刊行予定。続刊の同 Ⅱ 巻に寄せるエッセイを本日書き上げて編集部に送付した。400字40枚。 2018年3月に執筆依頼を受けてからの二年余、どう書いたらいいか頭から離れることがなかった。…

丸山眞男『日本政治思想史研究』とわたし

2013/07/19 作文する必要があり、丸山眞男『日本政治思想史研究』(東京大学出版会、新装版、1983)を取り出していたら、当時、上司の指示により、この新装版の本作りを手伝った30年前のことが蘇ってきた。丸山先生との話し合いにより、新しく組むにあたって…

「東京」「東亰」

慶応4年(1868)7月17日、「江戸ヲ東京ト称ス」との詔書が発せられ、江戸から東京に改称されました。この「東京」という言葉は江戸以前からあって、読み方も「トウキョウ」と「トウケイ」の二つがあり、明治30年代の国定教科書により「トウキョウ」に統一さ…

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)を読む

平岡敬『偏見と差别: ヒロシマそして、被爆朝鮮人』(未来社、1972)読了。これは、著者が中国新聞記者時代に各誌に書いた文章をまとめたもの。半世紀を経るものだが、驚くほど今日の状況を撃つものだ。日本の植民地責任と戦争責任、日本人被爆者と朝鮮人被爆…

吉川幸次郎『本居宣長』について

吉川幸次郎『本居宣長』について 「近世日本最大の学術出版人」と私が見ています本居宣長について記します。 7月9日の京都フォーラムに参加するため、前日に新幹線に乗ったのですが、そののぞみ車中で吉川幸次郎『本居宣長』(筑摩書房 1977)を読み終えまし…

日本読書組合版宮沢賢治文庫

21170202 【日本読書組合版宮沢賢治文庫】昨日、英宝社の社長の佐々木元さんと会っていて思い出したことがある。英宝社は、ジョン・ロナルド・ブリンクリー(1887-1964) が初代社長として創設された出版社であるが、実務の中心は、2代目社長となった佐々木…

丸山真男の鍛治隆一宛て書簡:東京大学出版会前後

東大出版会の前身の一つである東大協同組合出版部(1946年秋に活動開始)には、出版企画についての顧問会があり、そのメンバーは、渡辺一夫、福武直、中野好夫、丸山眞男、宮原誠一であると『東京大学出版会 50年の歩み』にある。その具体的な裏付けを、丸山…

ジャコメッティと矢内原伊作 2019

2019/07/08 国立国際美術館で「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅰ」が開催中(8月4日まで) 《20世紀最大の彫刻家であるジャコメッティの研究において、哲学者・矢内原伊作(1918-1989)の存在はとても大きなものです。矢内原は1956年から1961年の間に…

鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」

2012/07/03 鷗外初期三部作「舞姫」「うたかたの記」「文づかひ」を週末に読み終えた。なかなか文語文はつらい(また片仮名の「ヱヌス」が「ヴィーナス」であることは注記なしには分らない)が、それでも、鷗外の自覚的な文章統御意識による緊密な文体と形式…

是枝監督『万引き家族』

2018/07/03 昨日は、東京日比谷のTOHOシネマズで是枝監督の『万引き家族』を観て来ました。観る前と後とで、日比谷や銀座の街の風景と歩く人々が違って見えました。是枝作品はこれまで『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』を観ていますが、いず…

大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」:吉野作造との交流

昨日茅ヶ崎の川上書店で『ヒストリアちがさき』第12号(2020-3)を購入。充実した中身で120頁もあるのに税込200円という驚くべき格安。目当ては大島秀夫「高田畊安のドイツ留学」。雨の大阪に向かう新幹線車中で読み終えた。 高田畊安(こうあん;1861-1945)は、…

植村邦彦『隠された奴隷制』

今日は、マルクス研究者の植村邦彦教授(関西大学教授) を講師として、近著『隠された奴隷制』(集英社新書)をテキストとした学習会@大阪。同時代の奴隷制を肯定して自身がカロライナ植民地に奴隷を所有していたジョン・ロックから、モンテスキュー、ヴォル…

バリューブックスのオンラインツアーに参加

昨日は、長野県上田市を拠点として、中古本などの売買を業としているバリューブックスのオンラインツアーに参加した。中村和義さん他のスタッフによる案内で、個人宅から宅急便で入庫する様子から、再販売の可不可の判断、買い値の査定、再販売へのデータ入…

中山義秀「碑」「切支丹屋敷」を読む

中山義秀(1900-69)の中編「碑(いしぶみ)」を読む。中山は福島県白河市の生れ。「厚物咲」で1938年芥川賞受賞。翌年発表の「碑」は、祖父をモデルとしたものと言われ、下級武士の家に生まれた性格を異にする三兄弟が、幕末に佐幕派として、尊攘派として、そ…

【戦中に刊行された『頼山陽詩抄』について】

『頼山陽詩抄』(岩波文庫)を読む。これは、頼成一と伊藤吉三の訳注で、頼山陽の代表的な詩三百篇を収録している。第1刷は1944年に刊行されたもので、わたしの手元にあるのは岩波文庫創刊70周年記念として1997年3月に復刊された第3刷。半世紀かかって3刷…

丸山眞男と福沢諭吉:平石直昭の論考

昨6/9日は、『丸山眞男講義録別冊一、二』(東大出版会)の刊行を記念した 公開セミナー「丸山眞男の講義:政治思想史家丸山眞男は講義を通して何を訴えようとしたか」(主催:東京大学校友会ほか)に出るため久々に東大本郷へ。山辺春彦講師が『講義録別冊』…

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』

三浦綾子『われ弱ければ:矢嶋楫子伝』(小学館、1989)読了。矢嶋楫子(1833-1925)は女子学院院長をなどを務めた教育者、かつキリスト教婦人矯風会を率いた社会運動家。著者はこの自らの作品について「単なる伝記の抄出のようでいて伝記でもない。小説に似て…

中村武羅夫の辻堂

藤沢市辻堂西海岸の勘久公園を訪れた。ここは、北海道は岩見沢の出身である編集者・作家の中村武羅夫(1887-1949)が1921年に別荘を建てその後住まいとした地。辻堂駅から南に約15分の距離。跡地は勘久公園として整備され、中村の文学碑「誰だ 花園を荒らす者…

頌 土方正志

頌 土方正志(20160309) 5年を迎える東日本大震災の起きた3月11日が近づいてきて、落ち着かない気持ちでいる。そのような中、今日は、東京は神田神保町の東京堂書店で開かれた《『震災編集者――東北のちいさな出版社〈荒蝦夷〉の5年間』刊行記念 土方正志さ…

編集記

【回想】わたしは、30代は、東京大学出版会の編集者として、出版方針の一つの柱として尽力したのは、日本戦後史をテーマとしたものである。特に、日本が降伏したのちGHQによって統治された占領戦後史を重点的に出版の焦点に据えた。これには理由がある。アメ…

佐左木俊郎と夢野久作

夢野久作の佐左木俊郎宛書簡が国書刊行会版『夢野久作全集6』月報の土方正志「夢野久作と佐左木俊郎」で紹介されている。それによると、日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる夢野久作『ドグラ・マグラ』の原稿は、最初、作家であり新潮社の編集者であっ…

南原繁の丸山眞男宛て書簡、『形相』についての留意点

「南原繁書簡 丸山眞男宛 21通」が『東京女子大学比較文化研究所附置丸山眞男記念比較思想研究センター報告』(2019.3) に掲載されている。特に戦前の8通は今回初めての公開と思われる。その中に南原の歌集『形相』に収録されなかった歌も書簡中にあるのも…

佐左木俊郎、新作探偵小説全集、探偵クラブ

新潮社から「新作探偵小説全集」全10巻が1932年から33年にかけて刊行された。当時の探偵小説作家を糾合した書き下ろし新作シリーズである。これは甲賀三郎が企画したものであるが、新潮社の社員であった佐左木俊郎は1929年から『文学時代』の編集を担当し、…

トクヴィル『アメリカのデモクラシー』

2019/05/30 昨日の歯周病外科の大手術で今日は安静。お陰でトクヴィル (松本礼二訳)『アメリカのデモクラシー』第2巻下を読み終えた。岩波文庫全4冊で計1400ページ。今年の稀なる10日連休に際し読破を決意したのであるが、ほぼ1ヶ月かかった。1840年に刊…

矢田津世子、佐左木俊郎、『文学時代』

昭和戦前期の作家 矢田津世子(1907-44)と『文学時代』(新潮社、佐左木俊郎が編集)について調べていたら、津世子の兄が後に大和生命保険社長を務めた矢田不二郎(1902-78)であることを知った。数十年前の学生時代、矢田社長と親しくしていた大叔父から「も…

コロナ禍の中で新刊を刊行した著者に宛てた一文

著者に宛てた文面の一部: 先生の書籍の刊行にあたりましては大変お世話になり、ありがとうございます。発売からちょうど1か月となります。コロナ禍の最中の発刊となり、どうなることか心配しました。 四十数年、出版界に棲息していますと、さまざまな危機に…

佐久間象山の失敗した字書出版計画

佐久間象山の失敗した字書出版計画 2012/05/27天理ギャラリー「近世の文人たち」には、佐久間象山(1811-64)の自筆の「ハルマ出版に関する藩主宛上書」(嘉永2=1849年2月)が展示されていて、かつて調べたことのある象山の失敗した字書出版計画のことを思…

木下尚江『火の柱』

読もうとして挫折を繰り返していた木下尚江『火の柱』(1904年5月初刊)を一気に読了した。鄭玹汀『天皇制国家と女性:日本キリスト教史における木下尚江』(教文館、2003年2月)によって、近代日本における木下の位置を頭に入れていたことによって、読了で…

大槻文彦『大言海』の表記について

ことわざについての出版企画を検討中。文中、1956年版の大槻文彦『新訂 大言海』が出てくる。わたしが持っている1932-35年版の4冊本『大言海』でチェックしている。大言海の旧仮名遣いはメリットであるが、今日の五十音順とは異なる配列、変体仮名による表…

柳田泉『日本革命の予言者 木下尚江』(春秋社、1961)読了

20130920 柳田泉『日本革命の予言者 木下尚江』(春秋社、1961)読了。吉野作造らとともに明治文化研究会を主導した篤実な日本近代文学史家というイメージを抱いていた柳田泉が、ラディカルなキリスト教革命家というべき木下尚江について一書を著しているこ…